ボーダーラインを飛び越えて 1

□thirteenth.
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 逃げる様に退室したセブルスを追う……訳では無いが、残されたレギュラスもそろそろ目覚めたであろうメリッサがいるであろう談話室へと戻った。

休日とは言え昼過ぎに起きてくるなど惰眠に耽り過ぎだとは思うが、その前日にまた星見へレギュラスと共に行ったのだから生活リズムのずれは致し方ないだろう。


 赤を基調としたグリフィンドール寮の談話室。轟々と暖炉の火が燃えあがり部屋の温度を適温へと保っていた。

いつものソファにぽつりと座る姿を見つけ、破顔したレギュラスが早足で駆け寄りメリッサの横へ座れば、眠そうに目を擦る彼女へレギュラスは声をかけた。

「おはようございますメリッサ。よく眠れました?」

「ん……おはよう……うん。眠れたのはいいけれど、どうしてレギュラス君は同じ時間まで起きていたのに元気なのかしら……」

「慣れですよ慣れ」

「あまり遅くまで起きているのは駄目よ。ちゃんと睡眠とって……」

「……はい」

 目を擦るメリッサのまだ睡魔が残る声色で注意されただけで、レギュラスは何とも言えず口元の緩みが止められない不思議な魔法に遭遇したよう。

大人の男性が好意を抱く女性に「めっ!」と叱られるのが何とも言えないが嬉しさが止まらないと……何かの本で読んだことがあるレギュラスは漸く作者の気持ちが理解できた。

YESと返した言葉以上にふわりふわりと浮かぶ心がメリッサを普段以上に可愛らしく見せる。

小声で感想を呟くと飴細工で出来た舌がゆっくり溶けていく感覚に唾液が出そうなほどに甘いとレギュラスは思う。

「……可愛いなぁ……」

「だろう?流石僕の妹だと思わないかい。ねえレギュラス」

 ずしり。夢から地の底へ落とされる重い感覚がレギュラスの肩を掴む。

熱を帯びる頭から氷水をぶちまけられたように一気に血の気が引く気分にレギュラスは引き攣った声をあげ、背後に連なる面々を振り返る。

各々が購入した紙袋を持ち、レギュラスとジェームズを苦笑して見守る生暖かい視線を送る悪戯仕掛け人の姿があった。


「お、おかえり……なさい……」

「やあ今帰ったよ。さてレギュラス、その場を退いてくれるかい?今から僕の天使の為に選りすぐったお土産を渡すからね。君はシリウスお兄様とお喋りでもしたらどうだい?」

 一切の口を挟ませない速度かつ饒舌な喋りの最中からレギュラスはジェームズにより場所を強制移動させられ、苦笑するシリウスの前に追いやられた。

その間五秒はかからずに反論の余地もなく、甲高く喜びの声をあげメリッサへ挨拶をするジェームズの声量に怒りすら弾け飛ぶ。


「やあ、やあ、やあ!起きたのかい!?おめめがしょぼしょぼしてるねっでもごめんよ。まだ起きてて……ほら、メリッサにお土産さっ」

 どこから取り出したのかバラバラとソファに小山が出来る程のお土産を蒔いて行くジェームズ。

彼がひとつひとつ手に取り嬉々として説明していくのを、何とか眠い目を擦りながらも聞く姿勢を見せるメリッサを見て、レギュラスは何も言えなかった。


 そんな彼を気遣ったのかリーマスやピーターが軽く肩を叩き、自身の袋から何かを探り当ててレギュラスの手に何かを握らせた。

掌に収まる少々固い感触のものを開けばレギュラスの表情が困惑を帯びてくるので二人は苦笑する。

ポッター兄妹の邪魔はせずにそれぞれがソファに腰かけ、お土産の選んだ理由を教えてくれるが……レギュラスは曖昧に笑うしか出来そうにない。

「あの、なんで体力回復飴とか顔色さっぱりガムを選んだんですか?」

「だってレギュラスったらいつも顔色悪いじゃないか。こっそり朝早く談話室に下りた時とか君が読書しているの見て僕、本気で驚いたからね。いつ寝てるか分からない君にピッタリだろう!」

「リーマスに便乗する訳じゃないけど、レギュラスはほら……今年は誰よりも精神的なストレスがかかっているからさ……健康に気を付けて貰いたいなって」

 ……純粋な心配心だったらしい。寧ろ孫達が祖父の長寿を願って労わるような感覚にレギュラスから乾いた笑いが零れた。一応感謝を忘れずにいられたのは厳しい両親の教えのお蔭だろう。

それを納得したと取ったのか二人の態度は安心を前面に出し、自身の購入した品々を爛々と輝く瞳で取り出して機嫌良さそうにしていた。



 その間もジェームズの説明講座は続いており、時折彼女の腕を掴んで揺する所為でメリッサの眠気はだいぶ良くなった様に見える。

大きさの違うハシバミ色の瞳が並んであると、やはり兄妹なんだな……とレギュラスは思う。その考えが自然とレギュラスの右隣の一人掛けソファに悠々と座るシリウスへと視線が逸れていく。

人前でも大きな欠伸をしグッと伸びをしてソファに脱力するシリウスの気だるげな瞳は、レギュラスの物と寸分も変わらない。ブラック家特有の色なのかもしれない。



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