番外編

□猛烈ホームシック症候群 完
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誠凛高校バスケ部所属の黒子テツヤという男は無表情を主軸に僅かに喜怒哀楽を滲ませるような、表情筋が白旗をあげる変わった男だ

決して心が無い訳では無く寧ろバスケに置いては誰よりも熱い男だと火神は思う。だが最近の彼はどこかその心さえどこかに置き忘れてきたような節がある

同じクラスでしかも席が前後である火神は、目の前の黒子が頻繁に吐く溜息に特徴的な先割れの眉毛を寄せて、そろそろ教えてくれと吐露すれば黒子の視線がノロノロと焦点を合わせた

「僕の溜息の理由ですか」

「それ以外ねえだろ。あー…言い難かったら別に俺じゃなくても監督とか先輩とかにでも言えよ」

「もしかして先輩達も僕の様子に気付いてます…?」


大きく頷く。そうとは思いもしなかった黒子は無表情を崩さぬまま「困りましたね」と、またあの溜息をついた

体調不良や体力不足などの特有の呼吸とは違い、やや熱を帯びる熱い吐息。窓の外から遠くを覗きながらそんな溜息を吐かれているのを第三者が見ればまるで恋煩いだ

あの黒子が…!?と誰よりも思う火神だが、大好きなバスケにすら気持ちが疎かともなれば真実味が帯びる。勿論この知識は本人から聞いた訳では無いただの噂なのだが


(そりゃあ俺に恋愛の相談されたって大した役には立てないけどよ…いつまでも黒子がこんな調子なのも嫌だ…)

返答の来ない問いかけにトラの如く大柄な体躯を縮め待てを受けたように我慢する火神からそっと視線を逸らした黒子は、また窓の向こうの景色へと意識を飛ばす

まさか火神に片思いに耽っていると勘違いされているとは露知らず。代わり映えの無いグラウンドの奥で自身の満たされない気持ちへ思いをはせた


(ーー萌えが足りないです)


帝光中が数多の腐の民を輩出し様々なビックイベントで長蛇の列を成す優秀な人材を育成できたのは何故か

腐を蔓延らせるほどの顔面偏差値が高い野郎共が率先して、同人誌真っ青な接触を日常的にしてきたからとしか言いようがない


男女のカップルでさえもその片割れが腐落ちし引き摺られもう片方も…円満な腐カップルとなった件も両手では足りないほど噂で聞いた事がある

嫌悪感を抱かせない容姿や周囲との関係構築の根回しなど。どこの政治家だと言いたい位だが帝光中は腐の最盛期を極めていた


そんな場所で腐大臣と呼ばれ確固たる地位を築いてきた過去がある黒子は現在…腐が足りない腐足状態へと陥っていた

(新設校だからこそ清純な生徒が多く隠れ腐の民要員はちらほら見受けられても、肝心の腐が無いのはシンドイですね)


はぁ。また物憂げな熱い溜息…いや吐息が漏れ火神の肩がびくりと揺れた

純粋の塊である火神も中々の容姿を持っていると黒子は思うが、現時点で見たいのは最早熟年の域に達する京都に行ってしまった二人の触れ合いだろうか

画像も無修正動画も携帯がパンクする程手に入れているものの最近は送られてくる本数が激減したと黒子は不満に感じていた

(彼等に倦怠期なんて今更でしょうに。もしかしてコッチに気を使って…?傍迷惑なんですけど)


窓が溶けてしまうのではないかと火神が心配する程に一点を集中して見続ける黒子の様子はおかしい

もしや既婚者に恋してしまったのか!?と新たな疑惑が生じているとは欠片も想像しない黒子は、また熱い吐息を零してひとつの決断を下したのであった


(…僕に甘い二人に直接来て貰いましょうか)











一週間の休暇も半分以上使ってしまった。そろそろ本命に会いに行かねばとアレコレ計画を水面下で進めている最中にアキラの携帯へ一通の連絡が届く

あちこちに手回しした形跡が残る各高校名に斜線が引かれたメモを一旦置き、携帯に届いた宛先を見て暫し行動を止めてしまう

だが我に返った瞬間。届いた内容を確認し驚きで固まっていた表情を絵具で徐々にグラデーションを深めるように嬉しくて堪らないと訴える顔へと色を変える


あの黒子テツヤからのお誘い

黒子信者第一号であるアキラは魔王を倒してくる勇者に選ばれた以上に感動を覚え、より一層計画を成功させなければと固く決意

最後の一校である電話番号を探し心の弾みを体現しながらも番号を押し、先程まで何も感じなかった呼び出し音に恋をしているようにニヤケが止まらない

ぷつりと音が途切れ電話口に出た人にも幸せを分けるつもりでとある人物を電話口に誘い出す


「誠凛高校バスケ部の監督さんをお願いします…ああ申し遅れました。洛山高校バスケ部所属の副部長を務めます藍澤アキラです」





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