番外編

□猛烈ホームシック症候群 3
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その日高尾は歯磨きをしながら気まぐれに我らがエース様がご執心である番組を見ていた

シャコシャコと奥歯を磨き緑間の蟹座が昨日は最下位だったことを思い出し、ぶはっと噴き出しかける


確か昨日のラッキーアイテムは口紅だった。高尾の巧みな話術で唆し緑間自ら口紅を塗りそのまま一日を過ごした所為で笑いで死にそうになったのだ

(今日のラッキーアイテムはあんま変な奴じゃねえといいな)


【今日のおは朝占いの一位は…蠍座のあなた!】

「お、ラッキー」

意外な幸福が高尾に降り注ぐ。大して興味は無いとは言え占いでいい順位というのは耳を傾けたくなるのはなぜだろうか

どうせラッキーアイテムは用意する気はないが占いの上位というだけでいいことが起こりそうだと思えてくる

【珍しいモノが見る事が出来る一日です。ただし邪魔をすると効果は半減してしまいそう…ラッキーアイテムは…】

「邪魔するなっていうこと?ホントに一位に対するコメントかよ…一応覚えとくけどよぉ」

まるで親に勉強しなさいと頭ごなしに叱られた時のよう

機嫌が右肩下がりになっていく高尾だったが邪魔というキーワードが脳内でむくむくととある人物の姿を作り言葉を喋り出す


秀徳で頻繁に目撃される光景なのだが、集中してる緑間の横から口で集中力を途切れさせると緑間が苛立ちを隠さずにニマニマ笑う高尾に怒鳴り付けるのだ

(うるさいのだよ高尾!!邪魔するんじゃないのだよッ)

「やっべ、簡単に想像つく…っぶふふ!」

【二位は射手座のあなたですっ東の方角へ進むと良いでしょう…ラッキーアイテムは度入りの眼鏡です、色は問いませんよ!】

その後も発表される数字は大きくなるばかりだが一向に緑間の星座が出てこない。ついに数字が二桁に突入したが見当違いの星座が現れるばかり

ここまでくれば嫌な予感がしていた高尾の勘は確信にかわる。今日も相棒の機嫌は最高に悪い。最悪、包帯まみれで登校してくるかもしれない


最下位の星座の名前が画面に表示され泣いてるカニの姿が涙を左右に振り撒いていた


シャコ…と高尾の磨く手が止まってしまったのは、ナレーションのお姉さんの言葉があまりにも救いようがなかったからだ

【残念最下位は蟹座のあなた…しかも今日で三日連続の最下位…朝からずぅーっと命の危機が付き纏うかも!】

【決してひとりで行動しないで下さいね、特に常に包帯を巻いてる人は気を付けて下さい…ラッキーアイテムは】

(し…真ちゃんの命の危機じゃん、これ真ちゃんが名指しされてね!?やべーよ、あの子死んじゃうって…!)

唯一の救いであるラッキーアイテムを聞き急いで歯磨きを終わらせ、緑間へ電話をかけ繋がった途端マシンガンが乱射したように心配の嵐を叩きこむ


「煩いのだよ!」と返され「まだ生きてるよかった!」と感極まる

悟りを開いたような穏やか過ぎる声で「まだな」と返され…高尾は今日一日は絶対に彼のそばにいると心に誓うのであった


【ラッキーアイテムは旧友、それも物理的に距離が離れてる人です。近場の人は何の役にも立ちませんので、蟹座の人は頑張ってくださいねー!】









「…俺は、今日死ぬのだろうな…はは、短すぎるのだよ」

はは、ははは…乾ききった掠れた笑い声が緑間から発せられる。部活中にも関わらず体育着かつ眼鏡も無しに絶望してる彼に流石の先輩達もかける言葉が見当たらないらしい

緑間よりは浅い被害を被り練習着だけは死守できた高尾は汗をタオルで拭いながら、今日一日に起こった出来事を思い返していた


一人で行動するとほぼ死ぬと名指しされたも同然の緑間は朝っぱらからチャリアカーでお迎えに来て貰ったが、ラッキーアイテムを入手出来なかった彼に流れるように悲劇が連なっていく


チャリアカーに乗ってる時点で何故かカラスの大群が緑間を襲撃し、戦利品としてすべての包帯が持っていかれた

ついでに眼鏡もヒビが入り緑間の視界はぼやけながら一日を過ごす羽目になってしまう

緑間は茫然としており、高尾が必死に声をかけ漸く反応が返ってくるレベルだ。その二分後。突然の豪雨で制服どころか下着までずぶ濡れになる


その所為で緑間が妹から借りた折り畳み傘が北北東の方角へ勢いよく飛んでいき星となった。兄妹喧嘩は妹の圧勝な未来しか見えない

学校に到着するまで「あれ、何で俺は生まれてきたんだ…?」と三回は考える事態に陥ったのも無理は無い


その後も雨で教科書が使い物にならなかったり、見知らぬ生徒に緑間が膝かっくんの通り魔に遭遇するなど大小様々な不幸が緑間を襲う

人より良い眼を持っていると自覚がある高尾が頑張りをみせ、何個か緑間を回避させたがそれでも減りはしない。悪夢か


ついでに彼の昼食は再来襲をしてきたカラスに再び強奪されていった。高尾のは何故か無事だった為慰めの言葉と共に半分こにした。緑間は半分泣いていた

数時間経つ度に緑間の身に付けている衣類が強制変更させられるハプニングも起きてしまう


予備の下着も練習着も底を尽き体育でも無いのに体操着で数学の授業を受けざるを得ない緑間に、最早高尾はなんと声をかければいいのかわからなくなっていた

漸く。漸くの部活の時間まで生き延びたね真ちゃんっと喜んでいる高尾に小さく笑みを浮かべようとした瞬間ーー再び通り魔が襲い掛かる


巧みな手腕の通り魔がバスケ部ならば優秀なボール捌きで即戦力になるかもしれない手練れが何故この場所に。高尾は相棒が床に倒れ込むのがスローモーションに見えた

緑間は何かに躓いたように前のめりに床に伏し、その足元には脱がされた半ズボンが無様にも枷となっていた


バタリ、長身の緑間はパンツ丸出しで冷たい廊下に頬をつけ動かなくなった

神様の情けか、周囲には通り魔と高尾しかおらず緑間の露出狂の噂はここで息の根を止められる運命らしい


ニヤリと満足気に笑った通り魔。そのまま回れ右をして全速力で走り去った彼に手も足も出ずに立ち尽くすしかなかった高尾は漸く止まっていた呼吸を再開する

ものの十秒足らずの犯行は手際が良すぎて、相棒の残り僅かな自尊心までも奪っていった。そして現実を受け止めきれずに意識までも飛ばしてしまった緑間


高尾は周囲に誰もいないことを確認し無言で彼の半ズボンを履き直させる。緑間は白目のまま気絶したままだ。もうこれ以上不幸な目にあえば廃人になる

直感的にそう思った高尾は重い溜息をつき、緑間の携帯を探りあて今日のラッキーアイテムとなる人物へ遅すぎるSOSを送るのであった





そうして意識を取り戻し、死んだ魚の様な眼で自棄になった緑間と共に到着を待つ段階へ話は戻る


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