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□オリオンのままに 44Q
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「う、ぐ…ここ、は…≪夢の泉≫スノードームか」


脳内を締め付ける鈍い痛みに顔を顰め赤司は目を覚ます


辺り一面の雪景色…なのにまったく寒さを感じない異常なその場に仰向けで倒れていたらしい

起き上ると痛みが重力で地に落ちたように急に痛みは消えていく

雪を両足で踏みしめながら、人気のない不安な気持ちで歩く最中に思うことはひとつ、だ


「…まさか意識を無理矢理交換させるなんて、随分手荒いなあ」


今までは赤司が眠ってる間に引き摺り込まれるのが多かったが、今日はアキラと穏やかに夕食をとっていた最中に急に意識が奪われここに至る訳だ


どんな理由があってこんな暴挙に近い事をしたのか分からない

それでも無理矢理入れ替わって分かったこともある


「ロウの力が強くなってる…というか、俺に影響する力が、というべきかな」


ほんの少し前までロウが出来た事は赤司と脳内会話のみ。だが今ではロウの意思で無理矢理入れ替わる事もできるようになってしまった


ザッザッと雪を蹴り足跡を残していく。素足なのに冷たい感触が無く、雪っぽい物の上を歩いてる感覚は心がざらつく気分だ

赤司の記憶とかみ合っていない「ちぐはぐ」な部分に、どうも違和感がでてしまうのは何故だろう


「ロウの影響力が強まった原因ってアレだよな…」


そう呟き見えてきた他よりも縦にも横にもでかい樅ノ木。掌サイズの色とりどりに光る光の玉だけが飾られる寂しいクリスマスツリーだ

それに近付き光の玉を見て赤司は僅かに顔を恐怖で引き攣らせる。アレに触りとんでもない目にあったのは忘れられそうにない


「…コイツに触ったからロウの影響力が強くなったと思うのは…少し考え過ぎなのかな」


初めてみた時は綺麗だと思ったものなのに、今の赤司には光の玉にデコピンを食らわせる程苦手なものになってしまった

ピンっと軽い音を立てて揺れる玉。しかし前回と違いどろり、と溶ける様子も無い


ーーまるで役目を終えたといわんばかりだ



何の様子も変わらないことにホッと息を吐いた赤司はキョロキョロと周囲を見回す



すると少し離れた箇所に帰り道である氷の張った泉が見えた

そこから数歩離れた場所に、ロウがいつも座って何かをしてる机代わりの段ボールが静かに座している

普段彼はそこに座り、囲碁や将棋を打つ手付きで何かを置いては「パチッ」と段ボールから妙な音がするのが赤司には不思議でたまらない


「ロウは…この段ボールが大切では無いって言ってたんだよね…毎回使ってる癖に、変な奴」


どこか違和感がある段ボールにゆっくり近づき膝を折ってまじまじと観察

新品の段ボールはガムテープが貼っていないのに、折り紙の様に決められた形態を保ったままなのも、よく考えれば気持ちが悪い

どこにも隙間が無い。それがあるべき形だと認識してるような…考える程に胸に気持ち悪さが蔓延る


赤司は目の前の段ボールにどうしようも無いほどの違和感を覚え、いつの間にか眉を寄せていた


「大切ではないものを何で愛用するんだ…何の意味があるんだ…何でロウは自分の口から何も言わないんだ。何を俺に伝えたくて、スノードームに呼ぶ?」

誰もいないこの空間はどこか寂しくて、体感的には全く寒くないというのに心に風が吹き込む

誤魔化すようにこの場にいないロウへ愚痴を零す。彼がいまこの場にいようといまいと、答えが返ってこない、はぐらかされるのは分かってる

それでも言わずにはいられない焦燥感が赤司にはあった


「大体ロウは、何でか知らないけどアキラを嫌いすぎだよ。彼を知れば嫌う事なんて無いのに…ああ、でも…」

ーーアキラはロウと俺を同一人物扱いしたがるから、そこだけは嫌かな




ふぅ、と息を漏らしドスン、と座り込む

そのまま片膝を立て膝小僧においた手に顎を付ける


赤司は何となくその体勢を取っていたが、それはロウが段ボールと向き合う姿勢と全く同じだった


まるで鏡のように同姿勢を取ったのは無意識だった。今も気が付かないまま赤司は、段ボールへ手を伸ばす

独り言をつぶやくその顔は、ロウの確固たる自信を滲ませる顔とは真逆の、先程言った言葉に自嘲する…切なげな顔だった


「父や赤司家が求める理想像が息をしてるようなロウと…問題児な俺と、同一人物な訳が無い。そんなの…俺も、ロウも、誰も…認めないよ」



指が届く

瞬間前回の装飾がドロリと溶けた同じ現象に赤司が驚き、指を離そうとするのを液体が覆いつくすのに一秒もかからなかった

体だけ身動きが封じられた赤司の視界に映る光景がパッと変わる。雪景色では無い違うその場所に…二人の少年が現れる



(昔の俺と…誰?顔だけ黒く塗りつぶされて…分からない)



赤褐色のくすんだ髪の少年は一度だけ傍観者の赤司へ眼を向け、すぐに少年の赤司との会話に戻った


(いま俺をみた…?でも顔見えないし、気のせい…かな)



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