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□オリオンのままに 35Q
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昼下がりの怠い授業中に黒板へ眼を向ける生徒の少なさは誰もが分かる事だろう
ほんの数人は内職兼携帯弄りに勤しむ傍ら、半分以上が違う世界へと旅立っていた
口を呑気にあけ上を向いて眠る勇者。ノートに解読不能な暗号を刻む者
そして、顔を腕に伏せたスタイルで戦線離脱を表明する者の一人が今、伏せたまま器用にも欠伸をしていた
「くぁぁ…」
灰色の固めの毛先には緩く寝癖がつき、灰崎が如何に授業放棄していたかよくわかる
(授業なんて聞かなくてもなんとかなるもんだしな…あー、アイツやっぱ真面目に授業うけてんのかな。俺への返信こねえ)
スラックスのポケットからスマホを取り出し連絡が来ていないことに灰崎は静かに溜息を零す
灰崎の彼氏である剛田は眠気が最高潮の今時間でさえ真面目に板書をする程に優等生だ。当然返信は来ないと熟知しているのだが…
(…俺のこと飽きた、とか?)
部活が忙しくて会えず仕舞い。連絡等は週三程度とっているが灰崎には少し物足りない
帰りは終わる時間も違う上に居残りもすれば一緒に帰れる方が奇跡だ
ここまですれ違うのも、灰崎にとっては初めての事で、ぐるぐると負のスパイラルに陥る感覚に疑心暗鬼を生じる
屑だった頃とは違うピュア崎はとにかく繊細だった。あれこれ考えては項垂れて、でも信頼してる筈の剛田にもいえない
ストレス値が振り切りそうな程考えるのが辛い。会えないのが辛い。話せないのが、辛い
少しでも気を抜くと泣いてしまいそうで、灰崎は自分自身の精神状態が危険なことをヒシヒシと感じていた
(ちくしょ…ここで泣くとかハズい。泣くならアイツ等の前くらいか…?)
脳内でよぎったとあるカップル。藍と赤の授業態度の悪評の高さも芋づる式で思い出しサクッとメールを作成、送信
(どっちにも送れば必ずどっちかは返事かえし、って早ッ!)
心底びっくりした為不自然に机をガタガタと鳴らしてしまい、取り繕ったように咳で誤魔化す
くすくすと笑う声がチラホラ聞こえギッと睨みつけると消える。が中には携帯をこちらに向けてニマニマしてる奴もいるわけで
(先生に見つかってもしらねーぞ、て…遅かったか。没収ご愁傷様)
「だあああああああっお前ふざけんな!灰崎のピュアぶりが撮れねえだろうがああっ」
「古典の最中に携帯で盗撮する馬鹿が何をいう!灰崎が可哀相だろう!」
「腐大臣様がすでにお許しになられてる問題に物申すか…っ」
怒られてる生徒Aの形相が変わり鬼神と化す
この学校は魔王育成スクールかと一般生徒は頭を抱え、腐の民達は音なく席を立ち先生の背後へ這いよる
先生の意識が生徒Aに集中してる今、数多の手が伸び先生へと絡みつく
その様は地獄に引き摺られる亡者…十人は超える手が足が体が絡みつき先生は奇声をあげ暴れる。まさに阿鼻叫喚
「うわあああっ何してるお前達!誰だ腹を触ったのは!!」
「腐大臣様のご意思に背く輩を腐の部屋へ連れていけ。腐漬けにしてやるわあ!」
俺を変な世界へ連れ込むな
それが先生の最期の言葉だった。ゾロゾロと群れの中心にて叫びつつ腐の部屋へ連行された先生に一般生徒で黙祷を捧げる
灰崎が早めに黙祷をやめ辺りを見回すと、誰もが凄惨な殺人現場を目撃したように青褪めた顔で口を開こうとしない
誰もが心に深いトラウマを負ったのは間違いないだろう
(いや俺は違うわ。あ、結局アイツ等どっちも返信きた…嬉しいけど、これは先生泣くわ)
二人は十分以内に返信してる為ほぼ授業など聞き流してるだけなのだろう。その癖テストでトップを強奪するのだから救いようがない(先生が)
その頭に助けられてる上に泣き所として頼ってる灰崎は返信内容を確認し、そっと笑みを浮かべる
それは一瞬だったが偶然目撃した生徒Dの胸が煩くなる程、綺麗だったと彼は後に語る
灰崎の弱った心をそっと拾い上げる二人の言葉に機嫌を僅かに回復させ、指定された場所へ行くために足早に教室を抜けた
灰崎
≪ヤバい。泣きそーなんですよ≫
藍澤
≪泣くなら俺等の前で、な?第四保健室は確保しとくから≫
赤司
≪お前は溜め込み過ぎ。はやくおいで、受け止めてあげるよ≫
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