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□オリオンのままに 34Q
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テッちゃんが一軍にあがり俺も引き上げられたのは随分前からのことだが、基本一軍の練習には参加などしていない

アップからダウンまで二、三軍の連中を見て回る事に専念してる現状は…一軍に属してるべきでは無いと正直思う


(俺としてはテッちゃんと会えるだけでよかったし…一軍なんて最初からどうでもいいんだよな)


勿論レギュラー陣は好きだ。彼等と過ごす時間は飽きないし面白い上に安心できる

だがそれは別に俺が一軍にいなくても何も変わらない訳で。座るつもりの無い自由席をずっと押さえて貰ってる事実が酷くもどかしい


(俺が一軍落ちすりゃコイツ等の中から一人上がれる。その方がいいと思うんだが)


一軍にあがることを夢みて実際に夢を叶えた奴も何人もいる

…何故か数か月で「一軍は肌に合わないからコッチに戻ってきた!」という奴が多いのは困ったモンだがな


そういう輩がチラホラ見える二軍の練習風景をギャラリーから、行儀悪くも手摺に腰を下ろし、足をブラブラさせ観察する

最初は「死ぬ気か!?」と止められたが今では誰も気にしない。むしろ「パンツ何色?」と調子付かれる次第だ

特殊トレーニングに向かうグループの数人が、俺の真下を通り心を読んだように楽しげに問いかけてくる


「アキラーパンツ何色?」

「お前等がメントレで忍者できたら、好きなだけ見せてやる。ただし…嫁には内緒な?」

「忍者判定を出せと!??」


無理無理…でもパンツは見たい。あと口元で内緒のポーズはあざとい!あとウインクも!

わーわー言いながらも最後には燃え上がるやる気の塊加減に俺が笑いを堪えるので必死だ

手を振りながら今日の現場へと消えた連中に手を振り返しひとつ笑いを零す


「ふはっパンツが原動力って…ッ」

「いやいや実に若いなあ…ハッハッハ」


ふと隣に知らないスーツを着たオジサンが二名、マネをするように練習風景を見下ろしていた


(不審者か?)


訝しげに見る冷たい視線に、穏やかに笑みを浮かべる男が「不審者ではないよ」と否定


「なに、我々は一身上の都合で退任された前任コーチの代わりに配属された…」


こちらに体ごと向けて挨拶する中年男性は、ほぼ糸目で開かない眼を僅かに開き、読めない笑みを向けてくる


「一軍監督を務める白金と…」


白金の隣に立ったもう一人に視線を移す。細いフレーム眼鏡の向こうからは実に神経質そうな男の表情がよく見えた


「一軍コーチの真田だ」


…この二人は生徒である俺に挨拶しに来たのではない。二、三軍のコーチ兼監督である俺に挨拶をしに来たのだ

ならば、取り繕うのも一興。わざとらしく煽る口調で挨拶を返す


「これはこれは。ご足労感謝しますよ。新任の先生方!二、三軍のコーチ兼監督をしてる藍澤アキラです。どうぞよろしく」


白金の笑みを真似するようににっこり笑い手摺から降りず器用にも一礼

ぶれることの無い俺のバランス感覚にリスペクトしつつ頭をあげると、対照的なリアクションをとる新任に首を傾げる


困惑してる様子の真田と顔を背け堪えるように肩を震わせる白金



(…なんかこの人達大丈夫か?)


「…ああ。よろしく頼む」

「こちらこそ」

真田が握手を求めそれに答える。握手をした自分自身の掌をじーっと見てる真田に引いてしまう



…汚いとでも思われたか?心外だな


つい尖った口調で責めると真田はハッと我に返り慌てて否定するさまに眉を寄せる

そんな二人の様子に堪えきれず男らしく笑いだした


「あっはっは!いやいや、機嫌を損ねないでくれ。彼はキミのファンでね、感極まっていただけなんだ」

背が折れそうな程強く真田を叩き、痛がる姿を無視したまま謝罪をしてくる。蹲る真田に同情してる内にふ、と気付く



いや、まて


いまコイツはなんといった



ファン?まて、ありえない



規制されてる筈じゃ




頭が真っ白になる俺を笑顔のまま淡々と息の根を止めにくる白金に強い危機感を抱くのは自然だろう

息も思考も詰まる俺を放置し、捨ててきた過去を掘り返し始める声に、冷や汗が止まらない





「藍澤アキラ…いや、−−オリオンとリゲルのファンなんだよ。私達は」








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