番外編

□レベルデフコン
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リク内容
稔様…アキラの嫉妬



* * *



生い茂る木々。校庭に響く楽しげな声。快晴過ぎて突き刺さる紫外線…

にっこにこ笑う青峰と無表情の黒子が並ぶ列の真後ろの列にて血走った瞳で標的を定める輩が2名

体育の先生が「またあいつらか」と面倒臭そうに頭を掻く

「おい蟹座アーミー共。体育着はどうした」

蟹座アーミー…当然アキラと緑間を指し、迷彩軍服で全身コーティングしてる奴等は何故かお揃いのグラサンをかけ、淡々と軍人風に返答

「我々に体育着など存在しません」

「そうか。忘れたんだな」

「一般市民!我々に変な口をきくな!」

「そうか。そのペイント銃の所為で今日も会議は長引いたんだぞ馬鹿共」


がちゃっと構え教師に向かって発射。純白のTシャツに緑と赤のペイントが打ち付けられ何故か先生は倒れた。辺りは一切騒然とせず呑気にも準備体操の数を数え響かせる

「安心しろ一般市民。水性弾だからそのTシャツはまだ生き返る」

「アキラ上等兵。本格的にしようと本日付で油性弾に変えたのだよ」

「安心しろ一般市民!お前のTシャツは我がクラスの名誉雑巾として生まれ変わる!」

他クラスの教師のTシャツを最終的に強奪する宣言を告げ心因性ショックで倒れる先生の屍を越え、我等が敵の背後へ構えを解かずに忍び寄る

グラサンにより眼は見えないが確かに灯る怒気。アーミー共は殺意を敵へ向け砂を踏みしめる


じゃり、

「……はぁ」

黒子が視線を周囲に配り馬鹿野郎共のストッパー役の彼が不在なのを確認し深い溜息をつく。恐らくアキラにより沈められたのだろう…性的な意味で

体育の授業前に潰されたとしたならば彼の居場所は保健室と決まってる


(僕ひとりでこの場を収めるのは厳しそうですし、まだ全裸かもしれないです。よし、写真撮りにいこう)


準備体操しながら徐々に隣の青峰から距離をとり彼の背後に大きな影が2つ被った瞬間校内へ全力疾走。完全に相棒を見捨てたのだった


黒子の背中へ青峰が不思議そうに声をかけた瞬間

「おーいテツ…」

「随分悠長だな。我等が蟹座の敵…乙女座のザリガニめ」

「あ?うおお?!!…なにしやがるっテメェ等!」

容赦ないペイント弾の雨が青峰を襲う。反射的に身を屈め地を這う格好で避ければ舌打ちが返される

(舌打ちしたいのはこっちだっつーの!)

逆光でアーミー共の姿はほぼ影と同色だがやけに口元が歪んでいるのは地を這う青峰でも理解できた。明らかに今の青峰の無様な姿を嘲笑っていたのだ

「いいざまだなぁ。今日程おは朝に感謝した日はないよ」

穏やかにポツリ呟いた独り言。次の言葉を皮切りに額へ照準をあて引き金に手をかける

ゴリッと額に2つの銃口が当り避ける手段を笑いながら握りつぶしせめての優しさに眼を瞑ることを軽く勧めた



ああ、俺こんな目に合うならテツに告白しとくんだった…いだだだっデコ痛ぇ!


「ーーテッちゃんを狙う狼は、ボクが始末してあげる」

「ーー俺のオヤツのあんぱんを食った青峰…お前を始末しに便乗してやったのだよ」



あとついでに今日は蟹座と相性最悪なのは乙女座だったのだよ。とってつけたように返答され無性に青峰は怒りそっちのけでやるせなくなった




テメェ等ただの嫉妬と私怨で体育の授業潰すとか本当勇者。ああ、今日も空が青いな…ちくしょう




諦めたらしく疲れきったリーマンのような笑みを浮かべ大人しく瞼を下ろした青峰の最期の言葉が地面に吸い込まれペイント弾が打ち込まれ…心因性ショックで気絶


地に伏した敵を確認しアーミー共は歓喜の奇声を発し勢いよくハイタッチをかます

ばちぃぃぃいいん

えげつない音と共に激しい痛みに互いに蹲りペイント銃が地に落ちバウンドして少し離れた場所に転がった姿を観る余裕も無く


それを拾った誰かの存在にも気づかない


「っぐ、ちょ、と痛いのだよ…アキラ上等兵」

「のぉぉぉぉ!おーまいがぁっ」

「いや俺の方が痛い」

「ボクのが痛いんですけど真太郎伍長」



「へぇ。緑間の方が少し地位が高いんだ?」


アーミー共の背筋が凍る程聞き覚えのある声が聞こえる

いや待て。この任務を明らかに妨げる要素はこの授業中に起きない…いや立てないように追い詰めた筈だ。なぜここにいるんだ。もう嫌だぁと泣かれても攻めて半日は動けなくした筈だぞ

ダラダラ垂れる冷や汗は地に伏せた青峰の姿に自分達を無意識に重ねた警報に違いない。要は戦闘態勢警報なのだが、伝わる冷たい空気に体が石のように固まり動けない


恐る恐る声の方へ顔をあげるとーー般若がいた

「ひっ」

「なぁに。怖いものでもみたような顔しちゃって」

膝を折り蹲るアキラの顔を覗き込み笑ってる赤司。口元だけ弧を描き赤い相眸は見た者全てにこの世の絶望を与えるかのように凍え怒りを灯していた

赤司様である。魔王様御降臨である

本気で怒ってる。口調は穏やかで普段とかわらないというのにペイント銃を肩にかけ引き金に指をかけてる姿にアーミー共は絶望を感じ取っていた

ガタブルなんて言葉で済む訳がない。マナーモードばりに震えてしまう


「別にね、アキラが俺の意見無視して腰を砕いたのを怒ってる訳でも、お前らが共謀して授業潰した上に皆様にご迷惑かけまくってるのを怒ってる訳でも、青峰を潰した事を怒ってる訳でも無いんだ」

わ か っ て い る よ ね



貴方様が今学期最高潮にお怒りなことは把握できました。はい

日が照りつけていた校庭が一瞬でブリザードが吹き荒れる。吹雪に拐われたグラサン…ついに白い背景の中えげつない笑みを浮かべる赤司を見て恐怖のあまり真太郎伍長が敵前逃亡

軍法会議物である

猛ダッシュを決め校門へと全力疾走する後ろ姿を赤司が眼を細めスナイパーテツヤにペイント銃を渡し指示を出す

「黒子。コレで仕留めろ」

「ラジャー」

スナイパーモード起動。逃げる背中に照準をあて発射…パタリと雪の上に倒れ込む赤いペイントを垂らす緑間の哀れな姿に赤司様が満足気に微笑む

「上手だね。さすが俺達の特別」

「照れるので口説かないでください」

「つれないんだから」

照れの所為か耳が赤くなる黒子から優しく武器を受け取り再び凍りつく視線をアキラへと向けた

視線は相変わらず一片の温もりを感じさせないままの魔王モード中らしい。視界の隅で黒子が携帯を取り出した…やることは1つだろう

「ねぇ俺になにかいうことあるよね」

「は、い」

「ん?なんで震えてるの。寒いわけなんて無いよね」

ゴスッ。迷彩柄の腹部に銃口が宛がわれる。グリグリと抉られる感覚は気のせいではない

「計画の妨げるになると思い、まして」

「へぇ。だから俺の意見無視して散々犯して放置して満足?ふふ、いい加減にしろよクソ野郎が」

「く…ち悪くないですか」

「ん?俺に口答えする気?」

青ざめたまま勢いよく首を横に振る。ここで普段通りの我が儘及び俺様でいくと更に悪化することくらい目に見えてる

ついでにいえば赤司がここまで怒ってる理由もなんとなく分かってる…痛い痛い。わかってるから抉らないでって

「どうしても青峰をしばきたかったんだよ。おは朝の占いを聞いて今日しかないって思ったんだ」

「ふーん…」

不服そうに急降下する機嫌。妙に据わった瞳に睨み付けられとてつもなく居心地が悪い。普段の甘さがほしい

アキラの肩に額を押しあて呟く赤司の発言に瞠目する

「…ちゃんと言ってくれれば、俺だって許したよ」

「へ?いや、うそ」

「…なんで信じてくれないの。ばか、駄目アキラ」


駄目ってなんなの。地味に容赦ない言葉で心が抉られそう

一応彼氏だってこと忘れてない?

一部心の声が漏れてしまったらしく赤司の怒りにタップダンスを踏みながらガソリン撒き散らしてしまう

「一応…?仮初めの相手に俺の、全てを捧げたとでも思っているわけ……むかつく」

怒りで震える腕を伸ばしぐいっとアキラを引き寄せ唇に噛み付くーー瞬間


パァンっ


引き金を躊躇せず引く。一瞬で染まる腹部。ゼロ距離からの衝撃でアキラが気絶したらしい

意識を失い重力に従い赤司へとよりかかる。赤司よりひと回りはでかい体を包むように抱き締め背に手を回す

つい数時間前に赤司がつけた背中の傷へ服越しに爪を立てれば寄せられる眉に少しだけ気分が上昇した


「俺が目覚めた時そばにいなかった事も俺を除け者にした事も怒っているけど、それよりも」


息を吸い込む。藍色の癖がついた髪に頬を寄せれば大好きな匂いがして心が凪ぐ気がする、けれども
消えぬ怒りの炎



「…俺よりも別の人間に嫉妬したのが、1番腹立つ…っ」



青峰が黒子を狙っている事は気にくわないと前々から言っていたのは知っている

大事な黒子を盗られるかもしれない危機感と嫉妬が混ざる瞳で睨み付け牽制してる…赤司には見せたことがない姿だった

手に入れた安心感か離れないと確信しているからか、赤司に対する嫉妬は見せないことが赤司には腹立たしく思えた。どっちが大事なのと定番の台詞を持ち出す手前まで追い込まれるほどに



嫉妬して、なんていわないから

「アキラが思ってること…全部教えてよ。俺がアキラのやる事を全否定するわけないでしょ」


だから遠ざけないで。ひとりにしないで






じーっと無音アプリで録画していた黒子は停止ボタンを押しそのままテロリストアキラへ動画を送信

気絶したまま何も状況がわからずただの過去として流すなど勿体無い。貴重な恋人の意見を聞き入れるべきだろう


いつのまにか溶けきったブリザードの残雪を手に取り小さな雪兎でも作ろうかと2人に背を向けた

眼の色は赤と藍がいい

どうせもう数時間したら寄り添う雪兎のように仲睦まじくなるであろうと予想しながら、くすっと笑った


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