番外編
□全てボクのモノ
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カコン…
浴場に響く桶の音
檜の木で作られたセイジュ自慢の広めの風呂は藍澤家初代お風呂である
お湯の温度は少し高めでセイジュには日頃のストレスや疲労を解放するに適している
本日も長髪を頭のトップでお団子にし首までどっぷり浸かり気持ちよさそうに息を吐く
「はぁ…きもちい」
セイジュの呟きさえ反響する。それなりに広い浴場にセイジュ1人切りで入るので自然な事なのだが…たまにはアキラと共に入りたいと思う嫁心が騒ぐ
快楽とは毛色の違う気持ちよさでふやけた表情をしょぼくれた顔に変え寂しそうに眉を下げた
アキラと共に入った事があるのは一度きり。普段からシャワーで済ます彼にとっては風呂は得意ではない
セイジュに丁度いい温度もアキラにとっては熱湯以外の何物でもない。足先をちょんとつけただけで足先を庇う仕草を見せ早々に退散したチキン具合を見せた程だ
水温をさげたりすれば入れるようだが長時間は無理だろうし。なによりセイジュがリフレッシュできないだろう
不満そうに溜息を零す
アキラと一緒に入れるお風呂ってないのかな。少し位ならボクが我慢するのだって構わないんだし
項垂れ模索するも大していい案も出てこない。これ以上は考えてもでないと察し風呂を出て体を拭きながら脱衣所に行きふと気付く
「あ、下着もってくるの忘れた…ノーパンで着るの嫌だなぁ」
あるのは黒子と色違いの水玉パジャマ上下のみ。下着も無しにパジャマを着るなど気に食わないからノーパンというのは却下
何か無いかときょろきょろ見回し大判のバスタオルを発見
手にとり広げサイズを確認。肩からスポッと膝まで覆われその場でくるりと一回転しても無事に隠れる様だ
よし。下着取り行くか
胸元でぎゅっと握り前を隠しながらパタパタとリビングへ
アキラお気に入りのソファに彼は居なくテレビだけが独り言をつぶやいていた
別に用はないのだけれどキョロキョロと無駄に大きな彼の姿を探してしまう
下着のある自室を通り過ぎてまで彼を探し数部屋目の扉を開けたその場所でパソコンを真面目に見入る彼の姿を見つけホッと息を吐く
どうやらセイジュが近付いてきてる事に気付かない位集中しているらしい
イヤフォンをつけて何かを聞いてる所為だろう
後ろからひょこっとディスプレイを覗けば…
「〜〜〜ッ!!?な、んて物見てるのばかアキラっ」
「いってェッ!!」
アキラは頭を強く叩かれびっくりした顔でセイジュに振り向きあわあわとディスプレイを背後に庇いながら嫁の機嫌を窺う
「あー…今日も綺麗だな」
「〜〜っ」
「悪かったって!んなに睨み付けんなよ…オレが悪かった、悪かったって!」
赤面しながら睨み付けるが羞恥のあまり涙が大きな赤眼を潤ます
怒りと羞恥のあまり何も言葉を紡げないセイジュを抱き締めるが嫁は怒ったままアキラの胸板をドスドスと叩く
強かったのは初めだけで何回か叩けば力が弱まり最期にはきゅ、と服に縋りつき顔を埋めてきた
内心。画面越しより生身のセイジュの方が可愛いと改めて思い知らされてニヤケないように顔面筋を必死に抑えつけていた
「あーはいはい。俺が悪ぅございましたぁ」
「分かってるのか!あ、んなあんな…!」
「大好きな嫁さんとのハメ撮りを見てた旦那さんが悪いですぅ」
「〜〜っわかってないじゃないかぁ!」
ガバッとセイジュがアキラの胸から顔を上げ文句をいえばにやけたままセイジュを見下ろす旦那にまた恥かしくなり胸をドンと叩いてやった
濡れたままの赤髪のお団子を崩さない様に髪を撫でられ「わーってるよ」と言わればセイジュの怒りは萎んでいく
ほんと、口は汚い癖にボクに触る手付きは壊れモノを扱う様に優しいのだからいつも絆される
むす、と口を尖らせ不満気にするセイジュの唇をそっと啄みすぐに離れパソコンの動画を消す
「ディスプレイ全画面を使って自分達の裏動画鑑賞なんて悪趣味すぎる」
「オレ的には映画館で上映って長年の夢を実現させるよりはマシって思ってるぜ?」
「…そんなことしたら本気で怒るからね」
「しねーよ」
怒った顔より笑顔の方がお前可愛いからな
結婚してから殊更セイジュに対しドストレートに愛の言葉を等身大で伝えてくるアキラ
頭を撫でられてセイジュの好きな笑顔で言われた言葉に力が抜けて纏っていたタオルがスルリと床に落ち2人して固まる
ハッと我に返ったセイジュがタオルを拾おうと動く前にアキラによりひょいっと姫抱きにされそのまま座ってた椅子に座る
暴れようと一瞬思ったが無意味と悟ったセイジュがアキラにこてん、と寄り掛かり暖かい体温がじんわり伝わる
セイジュが大人しくしてるのを褒めるように頬にキスをしネットを開く
ディスプレイに反射して自分達の姿が映る事に溜息を零しアキラがネットで何かを購入しようとしている様子を見つめる
そこでふ、とセイジュが購入画面を見て何かを閃く
「もうすぐボク等の結婚5周年目だけど」
「おう。目一杯愛するから期待してろ」
「うん…ってその時、ちょっと買ってほしいのあるんだけど…いい?」
「なんだ?オペラハウスでも買うか?」
「無駄遣いをするな。じゃなくて」
片手を伸ばしキーボードを押し検索画面に入力
パッと出てきた中で適当なのを選び出てきた商品を指差しねだる
「記念日の時にアキラと楽しみたいの……買って?」
こてん、と首を傾げセイジュ十八番のオネダリがアキラに直撃
甘い囁きに購入バタンをクリックし手続きをババっと済ませ完了画面を見た瞬間セイジュを抱き上げ自室へと連れ込んだ
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