黒子のバスケ

□オリオンのままに 27.5Q
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場所:第一体育館

時間:部活終了間際










ガコン


「あ…チッ」












普通外す筈も無いレイアップを外し灰崎は忌わしそうに舌打ちを繰り出す。ここ最近何故だか絶不調なのは傍目から見てもよく分かる









本人も勿論気付いており時折何かを探す様にキョロキョロと視線を動かし落胆を隠す様に舌打ちをする。ちなみに本日25回目だ

あまりにチッチッと言う為スズメが同類と勘違いして第一体育館の屋根に大量に集合したのは2日前の話だ。役所に緊急要請をする羽目になり何故か赤司の機嫌が急降下して一足早い真冬が到来した気分だったのは気の所為では無い































そんな調子の悪い灰崎をじっと観察していた赤司は部活終了後に話しかける。声を掛けた灰崎が振り返った一瞬何か期待した様な表情を浮かべすぐにがっかりした表情に変化する


普段だったらニヤニヤと人を皮肉った笑みを浮かべてるというのに…今の灰崎の期待した顔はまるで__


















「恋する乙女か」

「は?」

「お前の期待した様な顔の話だ」

「な、ばっこ、恋なんて!ばかじゃねーの!!俺が、こい…なん…て」





















図星なのか急に大声を出し顔を真っ赤に染め上げ否定をする灰崎の所為で視線が集中する。とてもじゃないがこの場で会話をするのは無理そうだと判断した赤司が赤面を腕で隠す灰崎の片手を引き人気の無いミーティングルームへと連れ込む

触れる手にビクッと過敏に反応する灰崎に違和感を感じながら無理矢理連れて来て解放する。力が抜けた様にドアに背を付けへたりこむ灰崎の眼の前に赤司は膝を抱え屈む















本気で様子がおかしい灰崎の尋問開始だとにっこり笑みを作り少しだけ弾んだ声色で話を進める

















「で?女遊びが激しいヤリ××の灰崎がここ最近様子がおかしいのはどうしてだ?女に局部をナイフで刺されたのか」

「楽しそうにえげつない事聞いてきやがる…」

「だって楽しいんだもん」

「だもんって…女かお前」

「煩いぞ乙女灰崎が。その赤面をさっさと治してから文句言うんだな」

「俺だって治してーよ…くそ…全部アイツが、…くそぅ」


















赤みが引く事なく耳まで赤くなり手で隠せない程の状態までなった灰崎に赤司は大きな赤い眼をぱちくりさせ「これは重傷だ」と小さく呟く








何故灰崎がこのように情緒不安定になったのかと予想は出来るものの確証が無い。なんとなく察してはいるが所詮それは想像であり推測でしか無いのだ。眼の前の本人に聞いた方が心なしかスッキリすると思い拉致した赤司であった














「アイツって…」

「お前だって知ってんだろ…剛田だよ剛田。相撲部のエースの」

「あー…例の噂の」
















“相撲部のエースは不良の灰崎にご執心らしい”



















数ヶ月前から噂で流れてきている内容はどうやら本当らしい


今時珍しいラブレターを灰崎の靴箱に入れそれを見た灰崎が青褪めたという噂は知っていたが特に気にも留めて無かった為赤司は次々に流れる噂の内容はよく知らない。取りあえずアキラと黒子が何か企んでいるというのを呆れて見ていた只の第三者だ


















だが少し理解できない

灰崎は剛田によって熱烈なラブコールを送られていると同時にストーカー染みてる行動をされているとも聞いた事があるのだ


だからラブレターを受け取り青褪めたというのは理解できるが現状の灰崎の赤面は腑に落ちない。ストーカー染みた行動を受けた女子は強い拒絶と警戒を持つらしいが…
















なぜこの男は頬を赤らめうろたえているのだろう




















小声でぼそぼそとらしくもなく喋る灰崎の発言を一字一句溢さずに聞き取る為思考を止め耳を傾ける














「数ヶ月前から張り手さながらの猛アプローチされて…気持ち悪って思ってローキック噛ましたってアイツの脂肪には効かねーし。単純攻撃なら剛田の方が強いから次第に反抗する気力も無くなって」


「うん…?」


「最初はあっちも距離を保ちながら接してたんだろうな。手紙が何通も送られて軽く挨拶する程度だった。徐々にセクハラめいた行動も混ざり始めたけど俺の攻撃はアイツの脂肪に吸収されて意味ねーから睨みつける攻撃で反抗してたんだよ」













光景を思い出しているのか明後日の方向を向いたり下を向いたりと忙しない



「落ち着け」


赤司が灰崎の頭を思いっきり叩き少しだけ頬の赤みが引いた様だ












「尻を揉まれるし今まで関係持ってた女から変な眼で見られて縁切られるとか…もともと女を振るのは俺の担当だっつーの!!ふざけんなあのアバズレェ!!痛ッ」

「ゲス崎アバズレの話なんかどうでもいいんだよ」

「分かったからそんな叩くな!痛ぇ!…あー…剛田の話に戻るけど」














そこから灰崎が受けてたセクハラの一部始終を身振り手振りで熱烈に話してくる灰崎に若干引きながらも表面には出さずにまるでスクールカウンセラーの様な態度で頷きながら赤司は情報を仕入れる


曰く主に背後からの接触が多く容赦なく触り揉んでくる癖に純粋すぎる笑顔で灰崎を見てるものだから睨みつけるのも次第に躊躇するようになったと。その視線に耐え切れなくていつも自分から逃げ出してしまうらしい



逃げた後鏡で自分の顔を見て真っ赤になってたのを見て自分の気持ちが分からなくなったと




















気持ち悪くて仕方なかった癖に何で赤面してんだ俺…別にアイツの清純な笑みに絆された訳じゃねーぞコノヤロー!とサボリを発見され連行された先にいた生徒指導の先生に怒鳴り散らしたらしい。バカか















毎日毎日飽きもせずに灰崎にアプローチする剛田にどう反応したらいいのか分からなくなり何度目かの逃走した翌日から何故か一切接触を持たれなくなったらしい




背後に慣れた気配を感じて身構えた灰崎の横をスッと眼も合わせず通り抜け巨体が校内へ消えていくのを呆然と見送り強い違和感が灰崎の胸を巣食い始め舌打ちの回数が激増したそうだ















セクハラも無くなった。手紙もなくなった。挨拶もなくなった。ストーカー行為もなくなった。剛田が、灰崎に笑顔を見せることもなくなった












なんだ。イイ事尽くめじゃないか、と思う自分よりも強い強い違和感を発する灰崎自身が何倍も存在を主張していた

やっと解放されたんだ、と思えば思うほど胸がドロドロと黒い物で溢れて苦しくて泣きたくなった















灰崎が何かを探す様な動作をするようになった。一喜一憂が多くなった。纏わりつく女の温度が気持ち悪くなり嘔吐寸前で耐えた。産まれて初めてまっとうな理由(吐き気)で保健室へ行き不貞寝した




解決法は簡単だ。話しかけられないなら自分から…とはいえ自分から話しかけるなんて灰崎自身のなけなしのプライドが許す筈も無い













アイツが話しかけてくればいいだろ…前みたいに











そう鷹を括って何十回も眠りにつき今日に至る訳らしい…どうやら明日で話さなくなり1ヶ月となる様だが相変わらず剛田からのアプローチは皆無で灰崎が剛田の後ろ姿をじっと見ては切なそうに視線を逸らす日々だ




















灰崎が胡坐を掻いて座ってた姿勢から話す内に膝を抱え始め複雑でごちゃごちゃな感情で悲痛に歪む顔を膝で隠す。赤みが既に引いてるのは隠しきれない耳元を見ればすぐ分かった



本当に灰崎らしくない発言+行動に幾度目かの瞠目






















ある程度話し終えてスッキリしたのか深い溜息を吐き膝から顔を上げた灰崎が言い辛そうに「…どう?」と聞いてくる

その言葉を聞いて赤司が真顔で乙女崎に返す



















「構って貰えなくて泣いてる兎みたいだね。灰崎のくせに」

「…うるせー俺だって女なら適当に口説いてベッドに連れ込める自信ある」

「でも相手は男だからゼロからのスタートじゃないか。そしてお前は本当にゲスいな」

「…だから今の俺気持ち悪いんだっつーの…まじ俺がヤリ捨てした女みたいな事言ってるし…なんなんだよくそっ」















ぐしゃぐしゃに髪を掻き乱し「なんで俺が」「なんで剛田話しかけねぇんだよ…」「なんで」を壊れたラジオみたいに繰り返す灰崎の旋毛を見ながら赤司はふ、とはにかむ



















「灰崎は人間なんだな」

「ああ!??何言ってんだ赤司」















悲痛そうな表情から一変本業発揮とばかり凄みのある顔で理解不明だと隠さずに晒してる。うんやっぱりこの顔が灰崎らしいな

「ああん!?」と不良の本気を出してる灰崎の頭を強く叩き「落ち着け」と正す。まるで躾のなっていない犬だと内心思ってる赤司だが口外しないように気を使った



















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