黒子のバスケ
□オリオンのままに 6Q
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体験入部っていっても帝光中バスケ部はただ見学させるだけの様だ
1軍の練習風景を上のギャラリーからボケーと見下ろすだけ。つまらん
「体験入部ってこんなつまんないモノなの」
手すりに項垂れかかり詰まらなそうなアキラに同意するように赤司が溜息混じりに頷く
「正直ミニゲームくらいさせてくれると思ったが…体験期間中ずっと見学とはな」
目下の光景では1軍メンバーがいくつかに別れそれぞれが基礎練に取り組んでいた
レベルは高いと思う。現に赤司、紫原、アキラ以外の9割は眼を爛々とさせ興奮気味にその光景をみているのだから
「…てゆーか皆眼がキラキラしてて気持ち悪い。ヒネリつぶしたくなってきた」
ポテトチップスをバリバリと貪りつつ気に食わないと言いたげな顔は周囲を疎ましげに見ていた
その姿にアキラは伏せてた顔を紫原へ向けた後小声で赤司に報告
「むっくんが病んでます隊長」
「病んでるというより本性の一部に見えるな」
「マイエンジェルは旅に出たのですね」
「お前も旅に出て来い。そしてまともになって帰ってこい」
「ヤ。征ちゃんも連れて行く。むしろ連れまわす。翻訳はまかせて!」
「…紫原。アキラを俺から距離を離してくれないか」
引き攣った表情のまま不機嫌な紫原に頼めばすんなりとアキラを赤司の隣から自分の腕の中に閉じ込めた
アキラの脇から1本の長い手を差し入れ抱き上げる。そのまま手摺りに寄り掛かり身長差が激しい為アキラの足が床から離れていたが本人は気にせずプラーンと揺れていた
「ねーもう帰ろうよ。つまらないしめんどくさいし」
「絶対最後の言葉が本音だろ」
「細かい事はいーんだよ赤ちん」
ポテチの2枚に1枚は腕の中で大人しくしてるアキラに分け与える。美味しそうに食べるアキラを見下ろし機嫌が直ってきてる様だ
「ボクも正直飽きてきたんだよね。1軍なんて興味ないし帰ろうかな」
「アキラちんも?じゃ帰ろ。スイパラでも寄ろうよ」
「行く!」
回れ右をして本気で帰ろうとする紫原とアキラの脳内は既に上品なスイーツで埋め尽くされていた
「まてアホ2人」
紫原の長い脚の脛を蹴り蹲らせた猛者は呆れながら行く手を阻む
こんな魔王誰が倒せっていうんだ…!
ギリィと歯を食いしばり赤司を睨むアキラは痛みで蹲る紫原を守る為赤司の眼前に向き合う
妙な雰囲気を察した周囲はザッと波が引くように距離をとる
その場は既に殺伐としていた
「、ぃたい。赤ちんの攻撃力あなどってた…アキラちん。あとは、たの…」
紫原はその場に倒れ込む。アキラの悲痛な声が響く
「ッむっくん!!…征ちゃん。むっくんが、むっくんが何をしたって言うんだよ!!」
怒りがアキラを占め衝動的に赤司の胸ぐらを掴みあげる
ハッと嘲笑を浮かべ静かにだが冷たい声は背筋がぞわりとした
「奴がどうなろうとしったことか。俺の眼の前で頭が高いのがいけないんだよ」
文字通りの悪魔のような綺麗な笑みは有無を言わさず無意識に恐怖をそそる
一瞬怯えを見せたアキラの隙を赤い瞳は見逃さない。アキラのネクタイを自身の方へ引き寄せ耳元に弧を描く口元を寄せた
赤司は倒れる紫原を愉快そうに見つめながら囁いた声はアキラを絶望へと落とす
「この程度で俺を倒しにくるなんて随分舐めたマネしてくれたな?最弱勇者さん?」
次はお前の番だよ
周囲の音が聞こえなくなる感覚
いや現にシンと静まり返ったのかもしれない曖昧な感覚
竦む手足に力を入れバッと赤司から距離をとる
恐怖で震える体を隠す様に顔を下にむける
怖い。できるなら逃げたい
例え最弱と罵られようとも。だけど、
「どんなに、ボクが弱くても、お前を、魔王を倒せない実力だとしても」
ゆっくり顔をあげれば相変わらず人を見下した顔と眼があう
後ろの倒れて動かない紫原をチラリと見てすぐに眼前の敵を睨む
楽しそうに愉快そうに魔王はわらった
「大切な友達を殺されて黙ってるなんてできやしないんだよ…!」
ブレザーの胸元からスッとまいう棒を取り出し魔王へ向ける
そのまいう棒を見て笑ってた魔王の表情が険しくなる
「それは幻の…!どこでそれを」
「お前に殺されたボクの一族の物だよ。これでお前を倒さなきゃ誰も救われない」
もう、終わりにするんだよ魔王
まいう棒を構え動揺する魔王に向かって一直線に駆け抜けた
息を呑んだのは誰だろうか
まいう棒が魔王の胸に刺さり息が詰まる声が近くから聴こえた
ふ、と零れた笑み
「俺をころしてもお前は救われない…憐れな最弱勇者。せいぜい苦しんで生きて、しね」
まいう棒が手から滑り落ちたと同時に魔王がアキラの方へ倒れ込み急なことに対応できず重力のまま後ろの2人で倒れ込む
終わったというのに
復讐だって果たしたのに
魔王だっていなくなったのに
嬉しいはずなのに
涙がとまらない
「むっくん、これでよかったんだよね」
魔王の赤い髪を触ればサラサラとアキラから逃げる様に手の隙間からおちた
それは自身の手から友も家族も生きる理由もすべて零れ落ちた今の自分のように空っぽに見えた
怖くなった
やたら静かなその場で息をしてるのは自分だけ。返答など2度と返ってこない。理解してるのに感情が暴走しそうだ
涙がとまらない
熱くなってきた瞼を閉じてもまだ伝う雫
なぜボクはひとりになった?
なぜボクが勇者だった?
答えは知ってる筈なのに誰かに言ってほしいと願ってしまう
震える声が紡ぐ
自分の上で息絶えた魔王の背中に両腕を回し温める様に抱き締めた
「…また、会えたら今度はむっくんの行きたがってたスイパラに行こうね。その時は」
もう1度魔王の髪を優しく撫でる
心なしか魔王、いや赤司の顔が穏やかになった気がした
「__ボクらの友達だった征ちゃんも一緒に」
アキラは静かに泣き笑いを浮かべ近くに落ちてたまいう棒を拾いそのまま自分の胸へと突き刺した
周りが息を呑む
変なの。ボクしか生きてないこの場で聞こえるなんて…
もう1度瞼を開けたその瞳は誰も写さず赤司の髪を撫でてた手もゆっくり床に落ちた
同時に瞼も閉じられ全身の力が抜ける
その顔に最後の一筋の涙が垂れもう流れなくなった
最弱勇者も魔王もむっくんも呼吸を止めその場には折れたまいう棒がひとつ寂しそうに転がったままそこに存在していた
暫くの沈黙の後誰かが言った
「オレ…ケンカ中の友達と仲直りしてスイパラ行ってくる」
「俺も、ずびっ」
「ゴメン。僕今日部活やってられない。今すぐ家帰って妹とスイパラ行ってくる」
「いや。まて!俺もいく。部活なんかやってられっか!!」
「キャプテン!!今日はもう部活やめましょう!大切な人と一緒に居させてください」
キャ「…ずずっ。ぉう。本日のみ、俺達1軍は部活を急遽やめる!大切な奴と今日1日後悔の無いようにすごせェ!!」
はいっ!!!!
1階の1軍メンバーが急ピッチでその場を立ち去る。最後にキャプテンらしい男が叫ぶ
「体験入部に来た奴等。コートを自由につかってくれ」
「それとそこの最弱勇者と魔王とむっくん!次は幸せにな!」
最後の台詞は涙ぐんだ声でギャラリーの涙腺を刺激してキャプテンはその場をあとにする
ギャラリーからは拍手喝采をあび「ありがとう!」「最高!!」「魔王かわいいよ魔王」など声をかけられた
その間も3人は静かに床に倒れ込んでいた
10分もすれば涙が引いたらしく下のコートでボールの弾む音がいくつも聞こえる
ギャラリーには3人だけになった
赤司がぱちっと眼をあけると自分達の周りに大量のまいう棒とお菓子が献上され山となっていた
「_____なんだコレ」
「厨二病ごっこ」
「以下同文ー」
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