■薄桜鬼■
□一陣の風が優しく靡く(近藤←土方)
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「近藤さん…、どうしてあんたは、俺より先に居なくなっちまったんだろうな…?」
自室で誰にともなく呟いた言葉は、酷く冷たく自分の胸を突いた。
誰がどう見ても、新選組に必要なのは俺なんかよりあんただって分かるのに。
なのになんで、あんたが先に死んじまってんだ?
「なぁにが、命令だよ…」
それであんたが死んじまったら、意味ねぇじゃねぇか。
局長命令だろうがなんだろうが、結局俺は、あんたを殺す手助けをしたんだ。
「なぁ、近藤さん…。あんたなら分かるだろ?残された奴らが…俺が、どんな思いをするかぐらい、分かってたはずだろ…!?」
漏れ続ける嗚咽は、ただ悲痛な叫びに変わっていくだけで、とどまることを知らない。
目の前が霞んで、もう自分が何を言いたいのか、何を言っているのかさえも分からない。
だってあんただけだったんだ。
俺に夢を見させてくれんのは。
あんたが俺の生きる意味そのものだったんだよ。
「なのに、何でだよ…!?」
自分が変われば、俺が近藤さんを押し上げる為に修羅の鬼と化せば、夢は叶うんだと思っていた。
誰を切り捨てようと、誰を利用しようと、誰に鬼と罵られようと構わなかった。
あんたに出会ってから今までが、自分の人生の中で一番輝いていた。
あんたは俺が認めた唯一の男だったのに。
「あんたさえいてくれれば、他には何もいらなかったのに…なんであんたじゃなく、てめぇが生き残ってるんだよ…!?」
あんたが生きていてくれさえすれば、俺なんざ死んじまっても後悔なんてしなかったのに。
『トシ…、お前は俺が信頼している男なんだから、自分で自分を貶めるようなことを言わないでくれ』
以前近藤さんに言われた言葉を思い出す。
だけれど、あんたがいなくなったら、俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ?
こんなぼろぼろな身体になって尚、俺は何を守ればいい?
「っ、く…!?ぁ…ぐ、ぁ…!!」
不意に襲ってきた発作に、目眩と吐き気が込み上げる。
思考を侵食していく激痛に耐えながら、もしこのまま理性を失ってしまえれば楽なのかもしれない等と馬鹿馬鹿しいことを考えた。
羅刹となって狂ってしまえれば、きっと余計なことなんて考えずに済むだろう。
新選組の副長が獣のように人を殺してその血を啜っている等と噂が立つのは不本意だが、きっとそうなれば誰かが止めてくれるはずだ。
…誰が?
総司は病気を患っている。
原田と新八はとっくに新選組を抜けた。
斎藤は…
いや、俺はかつて仲間だった奴らに副長殺しをさせようってのか?
「っは…、てめぇのケツを…今更誰が…、拭ってくれるって言うんだよ…?」