■その他■
□12月20日
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セルジの母親に会って、禁止区域に帰って来た俺達は、行方不明のダグ、グレッグ、アビーを捜すために聞き込みを開始した。
だが重要な手掛かりは得られないまま、もうすぐクリスマスになろうとしている。
黒い空は相変わらずそのままの色で、まるでコールタールのように降り続けていた雨だけが、ひらひらと舞う雪に変わっていた。
「…黒い雪なんてあるんだな」
家路の途中、白い息を吐きながら俺はぽつりと漏らす。
少し前を歩いていたセルジが振り返り、皮肉っぽく笑う。
「白い雪なんてあるのか?」
「…あるよ。少なくとも俺が元いた世界では雪は白かった」
「…ここに降るのは黒い雨か、黒い雪だけだからな」
いかにここの環境が悪いかなんて、初めにここに来た時から知っていた。
青い空も、星も、月さえもここにはありはしない。
そんな中に一人捨てられていたセルジは、今までどんな思いで生きてきたのだろう。
きっとダグやグレッグがいたからこそ、今の彼があるのだとは思う。
セルジは「期間限定でツルんでいただけの仲」と言っていたが、感謝していることには変わりないだろう。
「…セルジは強いよな」
「いきなり何言ってやがる?」
「んじゃ、可愛い」
「ふ、ふざけるなっ…!!言うに事欠いて可愛いだと!?」
少し赤くなった顔でセルジは俺を睨み付ける。
身長は俺の方が低いから、本当は威圧感を多少なりとも感じると思うんだけど、瞳の前の彼は全くそれを感じさせない。
寧ろその仕種さえも可愛いと思ってしまう俺は、ある意味病気なのかもしれない。
「…可愛いよ。凄く」
囁きながらセルジの身体を後ろから抱きしめる。
それに反応するように、彼の身体がぴくっと硬直した。
「…っ、可愛い訳がねぇだろ。俺は、化け物らしいからな」
憮然と呟かれた言葉に、ちくりと胸が痛む。
前にダグから聞いた。
赤の民同士から生まれた子供は、悪夢(ナイトメア)という化け物になるのだと。
それは決して犯してはならない禁忌で、以前沢山の悪夢が人々を殺したのだと。
誰の意志でもなく。
悪夢というのは本来、ジェムが進化したもので、赤いゲル状の凶暴な生き物らしい。
だが、セルジは人の形として生まれた悪夢。
本能的に生きていくために、敵だと察知したものは容赦なく傷付け、お腹が空けば小動物や虫などを潰して口にしていたという。
およそ人間の赤ん坊ならば出来ない所業。
それを聞いたときには、さすがに驚いた。
同時に同情もした。
セルジは同情なんてされたくないだろうから、何も言わないでいたけれど。
生まれたときから一人で、人とは違う生き物。
なのに世界は残酷に彼を傷付けるばかりで。
その中でも生きて来られたのはダグやグレッグがいてくれたお陰なのだろう。
そしてずっと会いたいと願い、命を危険に曝してまでようやく会えた母親は、全ての記憶を無くして子供の姿のまま暮らしていた。
セルジもショックだったと思う。
「会えてよかった」とは言ってくれたけど、もしかしたら出会わずにずっと母親を恨んだり求めたりしていた方が幸せだったんじゃないだろうか。
今更遅いことだと分かってはいるけれど。