■テイルズ■
□誰かの宝
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「アッシュ…。アリエッタ、導師守護役を解任された…です」
いつものように命令された任務を終え、ダアトに戻ると、突然、ピンクの影が抱き付いてきた。
驚いたのは、ぬいぐるみを抱いたその少女よりも寧ろ、その後ろに佇む魔物の影。
慣れた光景とはいえ、いきなり数頭の大型魔物に囲まれる、なんて心の準備が出来るはずがない。
普通なら無意識のうちに剣を手にするのだが、それをすれば、今度は少女が泣き喚く。
八方塞がり、余裕が無くなるのだから、多少は緊張するというもの。
一息吐いて跳ねた心を落ち着かせ、視線を落とすと、俺は彼女に尋ねた。
「何があった?」
アリエッタの言葉は、魔物に育てられたせいか、言葉としてなかなか成立しない時もある。
それでも導師守護役を任されるというのは、彼女の努力の賜物だろう。
いくら魔物使いだからといって、言葉が通じない者に導師というローレライ最高指導者を守らせること程、愚かなことはない。
ならば彼女にはそれだけの資質があるということだ。
そして彼女がここまで言葉をマスターし、成果を残しているのは、導師のお陰と言っても過言ではない。
常にその傍で守らせ、教え、戦わせ、会話し、信頼を築き、彼女を成長させたのは間違いなく導師だろう。
だから、彼女の口から洩れた言葉は俄かには信じ難かった。
「アリエッタ、導師守護役を解任された…です」
その代わりに師団長の席を与え、六神将としてヴァンの傍で任務に就かせるのだという。
だが今になって、何故導師が彼女を解任したのか、全くもって分からなかった。
逆に戦争が起こりそうな今、任務に慣れていない新しい導師守護役などあまり価値はないはずだ。
導師は身体が弱いということもあり、強い導師守護役が必要でもある。
だが、アリエッタはその点ではそこらの一般兵よりも優れている。
正確に言えば、魔物を操るその能力が、だが。
「イオン様…アリエッタの事、嫌いになった、ですか…?」
「そんなことはないだろう」
「なら、どうして、アリエッタ…辞めさせられたです?」
ぬいぐるみを抱え、涙目で訴えてくる。
そして呟かれた言葉に、一瞬背中に悪寒が走った。
「アニスが…アリエッタの居場所…奪った、です…」