■テイルズ■

□求めない邂逅
1ページ/1ページ

 
「てめぇがフォミクリーなんて生み出さなければ、俺は…」



何度思ったことだろう。

何度憎んだことだろう。

何度、この世界に絶望したことだろう。



「怨んでくれても構いません。貴方には、私を憎むだけの理由がある」



眼鏡の奥の赤い瞳が俺を捕らえた。

頭の切れるこいつのことだ。

きっとどんな言葉でも、さらりと交わされるに違いない。

だからこういう奴は苦手なんだ。

勝てないことを本能で悟らされる。



「ですが、貴方にフォミクリーをかけたのは、ヴァンだということを忘れずに…」

「っ、知っている!」

「…そうですか」



人差し指で眼鏡を持ち上げ、掛け直す。

その際に俺を一瞥して。

その何もかも見透かしているような態度が、余計に俺を苛つかせる。



本当は分かっている。

本当に憎むべき相手はこいつではないことくらい。

技術を開発したのがこいつだからといって、こいつを憎むのは可笑しいということくらい理解出来ている。

問題は技術を悪用する使用者だ。

剣で傷付けられたからといって、その剣の製作者を恨む奴などいない。



だけれど、どうしてもそいつを憎むことが出来なかったなら?

でも確かに自分が被害者であり、どうすることも出来ない傷を負わされたとしたら?

そうしたら、一体誰を憎めばいい?



「…てめぇが、フォミクリーなんざ生みださなけりゃ、何もかも狂うことはなかった…」

「…そうしたら、貴方はここにはいないでしょうね」

「何?」

「貴方はアクゼリュスで消滅しているでしょう。預言通りに…」

「…」

「では、次は誰を憎みます?預言を残したユリアですか?」



誰を憎めばいい?

誰を責めればいい?

誰に、何に、絶望すればいい?



「…結果論で物事を言うんじゃねぇ」

「先にそれを言ったのは貴方ですよ」



結局は、何を怨んでも、何に絶望しても辿る道は一つだけなのだ。

今という現実だけで、他の道などありえない。



「…それでも、俺には貴様を怨むだけの理由がある」



怨んだところで何も変わりはしない。

だけど、許すことが出来ないのなら。

誰かを恨み続けるしかないだろう。

今はただ、そうすることしか出来ない。

無理矢理許せる訳でも、自分の置かれた状況を受け入れられる訳でもないのだから。



「…そうですね」



だがいつか、いつか全てを受け入れることが出来たなら。

その時俺は、こいつの何を許すというのだろう。

だってこいつは俺に何もしていないのだ。



「…チッ…」



余りにも自分勝手な感情に舌打ちをする。

だがそれでも尚、彼を憎むことしか出来ない自分が、酷く滑稽で。

同時に、やはりこいつには敵わないと、ただただ納得するしかなかった。



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ