■薄桜鬼■
□鬼物語(土方×斎藤)
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血が欲しいと、身体が疼く。
求めてはいけないものを求め続けてしまう。
この呪われた楔は、いつ俺を解放してくれるのだろうか。
「ぐっ…ぅ、は…」
「土方さん…」
「斎、藤…っ、出て、行け…近…寄るな…っ!!」
揚羽蝶の様に舞う漆黒の髪が、刃の様な白髪に変わる。
深い紫紺の瞳が、紅く血の色に染まる。
この苦しみは、人で無くなった者達にしか解り得ない。
血が欲しい等と、身体が渇く等と、一体誰に言えるだろうか。
「土方さん、俺の血を…」
「出て、行けと…言ったのが、聞こえなかったのか…斎、藤…っ!」
「いえ、ですが土方さんが求めているものくらいは、理解出来ますので…」
「ぐぅ、ぁっ…は、斎…藤…っ!!止め、ろ…!!」
「飲んで下さい、俺の血を…」
緩めた襟巻きの隙間から、刀を首筋に宛てがい、そっと引く。
甘く薫る血の匂いが、鼻を掠める。
自らの狂気を押さえ込む様に、俺は土方さんの傍に寄った。
「土方さん…血を…」
「っ、斎藤…お前…っ!!」
不安げに揺れる赤い瞳を、そこに灯る僅かな欲望の焔を、一瞬でも美しいと思ってしまう俺は、きっと誰よりも罪深いのだろう。
いつもの様に肩を抱き、首筋に優しく触れる土方さんに安心しながら、俺は瞳を臥せた。
躊躇う様に舐めていた舌が、足りないのか、貪る様に深く啜り始める。
解っている。
俺も同じなのだから。
ぎりぎりまで保っていた筈の理性が一気に崩れ、身体が渇く。
それが欲しいと求めてしまう。
いけない事だと知っているのに、狂ってしまう自分を止める事が出来ない。
「っ、もっと…飲みますか…?」
再び刀に手を伸ばすと、それを遮る様に強く腕を引かれた。
そのまま身体ごと、土方さんに抱かれる形で倒れ込む。
顔を上げると、交わる様に深く唇が重なった。
「んっ…は、んぅ…」
舌が絡み合い、嬲られる度に、先程迄土方さんが飲んでいた俺の血の味が頭を白く蕩けさせる。
甘い。
血を美味しいと、甘いと感じ始めたのは、羅刹になってからどのくらい経ってからだっただろうか。