■薄桜鬼■

□血飛沫よ、遥か空に舞い踊れ(沖田→近藤)
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ねぇ、近藤さん。

僕は貴方の役に立ちたいんです。

貴方の為ならどんなことだってしてみせます。

躊躇わず、厭わず、省みず、ただ貴方の為に尽くしたい。



だから、今。

僕は此処で、眼下に広がる光景にとても満足しているんです。

どす黒い血溜まりが広がる中で、僕の手が紅く染まっていることが本当に嬉しいんです。

僕が最初に殺す相手は近藤さんの敵であって欲しいと、ずっとそう思っていましたから。



「僕は…近藤さんの邪魔をする奴は、容赦なく…殺すよ…。覚えておいて…」



足元に転がるもう聞こえていないであろうその耳に、抑揚のない声で囁いた。



ねえ、近藤さん。

貴方の為なら命さえ惜しくないと誓える僕を、貴方は笑うでしょうか。

それとも、優しく撫でてくれますか。

身内の様に、掛け替えのない者だと思ってくれますか。



「出来れば…」



貴方に認められて必要とされたい。

それは贅沢なのかな。



「ねぇ、井吹君。僕に何か用…?」



息を切らして僕を見つめる彼に声を掛ける。

その顔、滑稽以外の何物でもないんだけど。

君も腰に刀を提げているなら、分からないかな。

刀ってのは、玩具や飾り物なんかじゃない。

人を斬る為の道具なんだよ。



「沖田。あんた何して…」

「何って…見て分からない?」



この光景に立ちすくんでみっともなく動けなくなるくらいなら、刀なんて持たないで欲しい。

僕だって、人を殺すことが怖いのなら、初めから刀なんて握らなかった。

斬られる覚悟も無しに、こんな所になんて来なかった。

分かってる?

僕達は京の治安を守るために此処に来て、必要なら不逞浪士と戦うことになるんだよ。

だったら、こんなこと日常茶飯事だよね。

人を斬って、返り血を浴びて、人殺しの汚名を着せられる。

でもそれが近藤さんの為になるのなら。



「そうだ。芹沢さんにいいことを教えてくれてありがとうって、お礼言っといてくれるかな」



分かっているよ。

僕が此処に来た理由。

近藤さんの役に立つこと。

もし近藤さんが僕に命じてくれるなら、僕は躊躇いなく、誰でも殺せる。

もし近藤さんの命を狙う奴がいたとしたら、僕は迷うことなく、そいつを殺す。



この覚悟も、願いも。

祈りも、望みも。

全ては近藤さんの為に。



だからそんなに悲しい顔をしないで、認めてください。

僕は貴方の手足となって働けることがこんなにも誇らしいのですから。



 

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