駄文

□不信
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 あいつは頭のいいやつだから、それくらいは考えるだろう。

 そうでなければ、何も今俺が一番落ち込んでいるときに、今まで俺が散々周りに言われてきた言葉よりずっと酷い言葉を、それも唯一の味方と思っていた奴がわざわざ言う必要はないと思う。

 我ながら暗い発想だと思うけど雪男に対して悪い考えしか働かないのだ。 

 俺の中に、あんなに可愛くて何があっても守ってあげなければいけないと思っていた優しい弟はどこにもいなくなってしまった。

 そうなると、俺の中には雪男に対する不信感しかなかった。

 今まで、ただ一途に神父と雪男だけは俺をわかってくれる、信じていてくれると思っていたのに。

 それは俺の都合のいい思い込みで、真実は今の雪男の態度そのものだったんだ。

 神父はそうだったけど、本当に俺を信じ愛してくれていたけれど、雪男は違ったんだと、俺を憎み、殺すために祓魔師になったのだと確信するに至ってしまった。

 今俺は、雪男と同じ部屋で監視されながら暮らしている。

 雪男は料理ができないし、悪魔薬学の講師だから食べ物に毒でも入れられてはたまらないので、朝晩と、昼の弁当は俺が作っている。

 料理をやっていてよかったと思ったのは、味覚が発達したせいで、ヘンなものはちょっとなめればわかる点だ。

 この間、雪男が課題をうんうん唸りながらやっている俺に

「兄さん、根を詰めるのも良くないよ。ちょっと休憩したら?」

とかいって飲み物を持ってきて、

「疲れが取れるハーブティーだよ。」

 なんて言ってよこしたけど、舐めたら舌がしびれる感じがしたので、飲むふりしてタオルに染み込ませた。

 そのあとの雪男の態度がおかしかったので、やっぱりあれは悪魔薬学の研究のために悪魔の俺に飲ませて調べるつもりだったんだと確信した。

「兄さん、今日は暑いと思わない?」とか

「体調が悪くなったら、すぐ僕に言ってね?医工騎士だから僕がすぐ対応するよ。」

 なんていうんだからな。

『死んでくれ』と言われた相手に疲れやら体調不良なんかを気遣われたって素直に頷けないし、おかしいとしか思えないだろう?

 だから、常に気を張っていなければならない。

 中学もケンカに明け暮れてろくに学校もいってない俺だけど。

 ケンカに明け暮れたからこそわかる雪男からの殺気。

 ものすごく思いつめた感じの気配を最近特に強く感じるときがあって、そんなときはさりげなく部屋を出るようにしたり、課題について尋ねて雪男の意識をそらせたりするようにした。

 今戦ったら体力的には俺が勝っていても、祓魔師として幾多の悪魔を倒してきた雪男とはたぶん勝負にならないだろう。

 だからなるべく昔から変わらない馬鹿な兄貴のふりをしながら知識を蓄え、炎も制御して雪男に気づかれないように祓魔師としてやっていけるようになろうとしている。

 そしてあいつの我慢が限界に来る前に、雪男から離れようと思っている。

 いくら相手が悪魔だからといって、雪男に親族殺しはさせたくなかったから…

 どんなに憎まれても、守るべき存在でなくなっても、雪男は弟だ。

 雪男も俺を憎みながら、兄であったからこそ監視しているんだろう。
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