パロ文

□ブルーチェリーブロッサム
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燐独白

 俺は孤児だった。

 両親が病気で亡くなったのは、それこそ2歳くらい、桜の舞う頃だと思うのだがはっきりはしない。

 おぼろげな記憶しかないのは、その後引き取ってくれた養父が、それこそ実の親並みの愛情を注いでくれたからだと思う。

 桜吹雪の中で初めて会った養父の姿は、今でも俺の中でずっと輝いている。

 それくらい、尊敬できて憧れて、優しくかっこいい人だった。

 ある意味、俺の初恋は父さんだったかも知れない。

 幸せで、毎日が楽しくて、同じ年だが数日後に生まれたから弟だという者も出来て、悲しみが薄れていったのは覚えている。

 養父の妻だった人は体が弱かったらしく、弟の雪男を生んですぐに亡くなってしまったという。

 そして雪男も、母親に似て体が弱かった。

 だから俺は引き取ってもらったお礼と、大事な弟の雪男を丈夫にするため、一生懸命料理を覚えた。

 掃除も洗濯も、俺ができることは精一杯したら、養父は桜吹雪の中、俺を抱きしめて言ってくれた。

「燐。無理するな。助けてくれるのはうれしいが、そんなことしなくても、おまえは俺の最高の息子で、雪男のいい兄貴だ。」

 その言葉と、温もりだけで、俺は一生この人の息子で居ようと思った。

 そして、俺にとって桜は、幸せの情景となった。

 だがその幸せも、長くは続かなかった。

 養父が事故にあって、亡くなってしまったのだ。

 悲しかったし、切なかったが、泣いてはいられなかった。

 養父の忘れ形見の雪男は、体は弱かったが頭は良かったので、昔から医者になりたいと言っていた。

「おいしゃさんになって、おとうさんとにいさんにおんがえしするね。」

 これが雪男の口癖だった。

 毎晩のように熱を出しては、朝、食欲が戻った食卓で、養父と俺に言うのが恒例だった。

 そんな雪男を施設に入れて、ちゃんと勉強できる環境にしてもらえるだろうか?

 大体熱を出すのも、体が弱いのに本に夢中で、根を詰めてしまうのも原因の一つだった。

 施設に入ったら、そんな雪男は絶対本に近づかせてもらえないような気がする。

 読んでいても、ある程度で取り上げられてしまうだろう。

 本を途中で取り上げた後の雪男の扱いがどれだけ難しいか、知らないのだから仕方がないが、そんな面倒をするくらいなら、施設なんて行きたくない。

 そして俺は、俺が金を稼いで、二人で暮らす道を選んだ。

 6歳になったばかりの俺が、どうすれば金を稼げるか公園で悩んでいた時、声を掛けてきた大人がいた。

 初めは、おまわりかと思ったがスーツだったし、一応話を聞いてみたらこいつにちょっと付き合えば金をくれるという。

 正直怪しかったが、俺は生まれつき力が強かったし、なぜか養父が護身術とか言うものを教えてくれたから、多少の危険は回避できる。

 だから、そいつについて行った先で、信じられないことをされたが、かなりの金を貰ったからそれは良しとした。

 そうして、俺は雪男と二人でなんとか暮らしていた。

 たまにすげえ危ないやつもいたりしたけど、ぎりぎり逃げ出して、マンホールを潜って家に帰った。

 だって、雪男は俺なんかより可愛いんだ。

 病気がちで日に当たらないから肌はめちゃくちゃ白いし、瞳は大きくて綺麗な翠で、顔に三つ日黒子があるのが愛嬌になっていて、そんな奴らが見たら雪男にまで手を出すだろうから、絶対家は知られないようにした。

 そうして数カ月暮らしてきたある日、俺はそいつに捕まった。
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