パロ文
□過去に縛られて
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奥村燐と、奥村雪男は双子の兄弟だ。
二卵性の双子ということらしく、顔立ち、身長、体つき、性格とすべてにおいて違っていた。
兄、奥村燐は細身の体で、運動能力は抜群だが、学力は中の下位だった。
弟、奥村雪男は高身長で、運動神経は普通だが、学力は常に学年トップだった。
勉強ができる背の高い男は、女子受けがいいらしく、常に雪男は女の子に囲まれていた。
容姿も地味目だが整っていたし、物腰柔らかなのも人気の原因だった。
反して燐の方は、男にモテた。
無邪気で無鉄砲だけど、正義感にあふれ優しく、兄気質なためすべてを受け止めた。
顔はいたずらっ子のような強めの釣り目で、そのあたりが女子には不評だったようだが、男子には一緒に居て笑った時の顔が、凄く可愛いと大人気だった。
同じ年だし、男兄弟なせいもあるのだろうが、何かと張り合うことの多い兄弟ではあった。
身長も勉強も兄は弟に負けていたが、運動会での賞やクラブ活動での兄の活躍に弟はかなわなかった。
そして、懐の深さも、弟は兄にかなわないと思っていた。
ただ、その深さで誰もかれも受け入れてしまうから、兄の身に危険が及ぶことも度々あった。
ちょっときつく見える顔立ちだが、雪男と兄弟なのだ、よく見るととても綺麗な顔をしている。
それに目を付けた危ない趣味の人や、その手の商売の人に道を聞かれたりしても、ホイホイと車に乗ってしまうような無防備さなのだ。
ただ、野生児のようなところがあり、勘働きは鋭く、ぎりぎりですべて回避はしている。
中学も後半になると、性的興味で下ネタが盛り上がるのは仕方ないことだ。
燐はいつも男子に囲まれて、みんなでワイワイ騒ぎながら、誰かがどこから手に入れた大人の絵本でエロ話に花を咲かせる毎日だ。
そんな燐を女子に囲まれながら、雪男はさびしく眺めていた。
なぜか雪男は生まれた時から、いや生まれる前からと言っていい頃から燐のことが好きだった。
雪男の心の奥に誰かがいて、その人が燐をとても愛していて、燐を欲しがっている。
その心の奥にいる人は、雪男であることは間違いないけれど、まだ幼かった雪男にはその思いが重く、怖かったのでずっと見ないふりをしてきたのだ。
しかし、雪男自身が思春期を迎えると、その人の思いは雪男の想いそのものであることを痛感し、落胆するのだ。
だって燐は自分の兄、血を分けた兄弟なのだ。
兄を欲しいだなんて、倫理的に外れた行為だとわかっているから、絶対叶わない。
こんな思いを持つこと自体が許されないのだと思う。
それなのに、思いを消せない。
それどころか年々強くなり、男の友人に囲まれて笑う兄を見ると嫉妬で狂いそうだった。
高校は雪男は有名進学校に進み、燐は運動が盛んな学校に進むことが決まっていた。
二人とも寄宿制の学校なので、家から出ることは決まっていたが、兄弟が離れ離れになるのは初めてだった。
雪男はホッとするのと、寂しいのとが交差した複雑な気持ちでいた。
年々強まる思いに、そのうち兄に手を出してしまいそうだったから、離れられてホッとはしたのだが、ずっと一緒に育ってきた兄と別れるのは寂しかったし、恋い焦がれた相手と離れるのは苦しかった。
どうせこのまま別れるのなら、この先たまにしか合わないのだし、いっそここで冗談めかして告白したら、少しは苦しさから解放されるのではないか、そうも考えた。
モダモダと考えているうちに、明日はそれぞれ寮へ出発という日になってしまった。
双子の母は体が弱く、そのため家事全般、兄が執り行っていた。
勉強ができ、小さい頃から医者になってお母さんを診ると言っていた弟に、気兼ねなく勉強させるためでもあった。
だから雪男にとって、家庭の味は兄の料理の味で、料理上手な兄の料理で舌の肥えた雪男は、寮生活でちゃんとご飯が食べれるかも心配だった。
そんな兄の最後の心づくしの料理に舌鼓を打ち、楽しい団欒を過ごした後、さあ今夜は早く寝ようと部屋へ引き取ろうとする兄が、フッと雪男の顔を見上げて声を掛けてきた。