駄文
□愛していると言えなくて
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「メフィスト。雪男と燐、部屋別にしてやってくれねえか?」
ある日、正十字学園理事長室に疲れきった顔でそう言いながら霧隠シュラがやってきた。
「なんでしょうか、急に?奥村君の監視役として奥村先生はいますので、なんの訳もなく別部屋と言われましても…」
「訳は、…話す。聞いたら後悔するかもしれにゃいけどな…」
その日、いやもうだいぶ前から気づいてはいたのだが、奥村燐の修業の成果が上がっていない。
ひどく疲れて眠そうだったり、やつれたという言葉が当てはまりそうなくらいげっそりとしていたりで、集中力にかけるのだ。
これをほうっておいてはまずいだろうと、剣の師匠となってからいろいろ気にかけていたシュラは、燐を問い詰めることにした。
初めは話したがらなかったが、修業が滞ってることは自分でも解ってるのだろう、ぽちぽちと話し始めた。
そしてシュラは後悔した。
いや、後悔というより悔やんだのだ、奥村雪男という男が知り合いに居ることを。
さらに燐を不憫に思った。魔神の落胤・蒼い焔の継承者として常に命を狙われる立場なのに、そんな重荷まで背負わされなくてもと…
燐の双子の弟雪男は確かに優秀な祓魔師だ。
7歳で勉強を始め、最年少記録で祓魔師の資格を取った。
悪魔薬学の天才とも言われているし、15歳にして医工騎士と竜騎士の資格を持ち、しかも銃は両手打ちというすごい才能を発揮している。
だがいかんせん、凄過ぎた。
自分ができたことはほかの人間もできるという思い込みがあるようだ。
兄である燐は決して馬鹿ではないが、小中と周りから疎外された関係で学校をさぼっているため、学習面では遅れが目立つ。
学ぶということから距離を置いていたら、いくら噛み砕いたからと言ってもいきなり悪魔薬学やら、高校の課題やらをやれと言っても無理があるだろう。
それなのに、兄が課題をまじめにやらない、僕がこんなに心配してるのに能天気に過ごしている。
僕の任務には勝手についてきて、机での勉強は向かない、俺は実践型だなんて駄々をこねる。
そんな兄さんにはお仕置きが必要だね。これは僕がやりたいんじゃないよ。兄さんのためなんだ。
そう言われて燐は、毎日毎晩、雪男に攻められている。
初めは解らない課題に唸っていると、定規で背中をたたかれた。
そのうち、定規で尻尾をたたかれるに至り、雪男がいるときは服の中に隠すことにした。
そうしたら、しっぽは叩かないから肩を出せと言われて、肩に聖水を落とされた。
一滴聖水を落とし、痛みにうめいてるうちに傷が治っていく。
するとその傷跡を雪男が舐めてくるのだ。
燐が唖然としていると、
「消毒だよ。よく怪我した後って舐めるじゃない。あれとおんなじ。」
燐にとってはその時の雪男の顔が一番怖かったとのこと。
そうして毎晩、雪男が任務のない日はそんな責め苦を受けていて、最近は聖水の落とす場所がだんだん下半身に近づいてるのが、燐の不安だ。
やっと解放されて、これで雪男と離れて眠ることができると思ったら、
「兄さん。今日もすごく頑張ったね、今夜も一緒に寝てあげる。ご褒美だよ。」
なぜそれがご褒美?と思わないでもないが、燐に断る気力がなくても無理はない。
そして毎晩布団の中で、散々恐ろしい思いをさせられた相手に抱きしめられているので、本当の意味で休めたことがないらしい。
こんな話を、やつれきった燐から聞いた後、たまたま廊下を歩いていく雪男を見かけた。
シュラが出会ってから今まで見た中で、最高にご機嫌な様子の雪男を見て、シュラは知った。
最年少天才祓魔師はドSの変態で、しかも欲望対象は実の兄。
それでいながら、告白もできないビビりな腹黒陰険好色ホクロメガネなんだと。