駄文
□約束は守るもの
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「俺、雪男のことが好きらしい。」
ある日の旧男子寮。
食堂で向かい合わせで食事をする、双子の間に突然その言葉は降ってきた。
「え…に、兄さん。今なんて…」
「いや、昨日フッと気が付いてさ。一応言っとこうと思って。」
「あのだから、兄さん。もう一度…」
「まあ、おまえも急に言われても困るだろうし、第一今まで兄貴としか思ってない奴にそんなこと言われてなんだってとこだろうし。」
「だから兄さん、もう一度言って」
「でも返事はほしいと思うんだ。かといってお前にその気がないのに無理言うのもなんだから、一週間、今週の土曜の夜12時までに返事できるなら、返事くれ。いままでどおり兄弟でいようというなら、何も言わないで12時超えることを返事ととるから。」
「兄さん、あの僕の話…」
「じゃ、一週間。じっくり考えてくれよな。」
そういって燐はそそくさと食堂を後にした。
後に残った弟の雪男は、固まったまま、兄の後姿を見送るしかなかった。
燐が突然告白したのは、その性格が大いに関係していた。
なんせ、隠し事ができないし、我慢も得意ではない。
だからと言って大切な弟を好きになったからと、追い詰めたくはなかった。
それで自分で期限をつけて、弟に考えてもらおうと思ったのだ。
その結果、兄弟でいようという無言の返事が来たときは、雪男の負担にならないように弟の雪男を好きになった記憶を消してくれとメフィストに頼んだのだ。
初めは弟を好きになってしまったことへの戸惑いから、雪男との部屋替えを頼みに行ったのだが、
「告白してしまえばいいじゃないですか。」
と、あっさり却下された。
「そんなことして、雪男が俺のこと好きじゃなかったら、あいつ優しいからそのあとの態度に悩むと思うんだ。雪男にこれ以上負担掛けられねえよ。」
「奥村先生もあなたのことが好きで、即OKかもしれないとは考えないんですか?」
「いや、それはねえな。一度「死んでくれ」って言われてるし、迷惑しかかけてねえし、」
「ああ、そうでしたね。でも監視対象と一緒の部屋に居なければ、監視役として任務放棄とみなされる可能性もありますよ。」
「そ、それは困る!雪男が悪いんじゃねえから。…俺が悪いんだ。悪魔で兄貴のくせに弟を好きんなっちまって、しかもそれを隠せねえって馬鹿な頭しかねえからな。」
「好きな気持ちなんて今までだって態度に出てたでしょう?」
「兄弟として好きだと思ってたから、それが違うって、恋愛対象で好きだって気が付いちまったのを隠せねえんだよ。俺、隠し事あると態度に出ちまうから。何隠してんだって問い詰められたら喋っちまう。」
「好きなこと忘れてしまえばいいじゃないですか。ポンと呪文で」
「そんな簡単に忘れられたら…って、そんなことできるのか?」
「あなたが今回作ってきたタルトの美味しさの御礼代わりに、やってあげてもいいですよ☆」
「た、頼む!…あ、でも、すぐじゃなくて一週間後とかってのもできるか?」
「すぐでなくていいんですか?」
「あ、いや、あの、…い、一応、雪男にも少しは考えて欲しいなって…」
馬鹿で悪魔な俺は、絶対ないのがわかっていながら、もしかしてにしがみ付いた。
雪男が一週間考えて、俺を受け入れることを選んでくれることに。