駄文
□天使の悪魔
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奥村雪男は兄、奥村燐に様々なことを秘密にしてきた。
自分たちが魔神の落胤で、兄がその象徴である青い焔を継いだ悪魔であることも。
自分が悪魔を倒す祓魔師の修業をし、最年少で祓魔師の資格を得たことも。
養父藤本獅郎が聖騎士で、彼から直接指導を受け対悪魔薬学の天才と言われていることも。
兄を守る。その決意を込めて、兄に隠し通してきた。
隠し事が苦手…というよりできない兄と違って、雪男は隠し事が得意だった。
どちらかといえば鈍い兄だが、雪男のことは双子だからなのか色々気づいたのに、雪男が故意に隠したことには、絶対気づかせることはなかった。
そうして7歳から15歳になった今まで、雪男は燐に秘密を持って過ごしてきた。
しかしそれも、兄が悪魔として覚醒してしまった今、すべて兄に知らされた。
「俺にはずっと秘密にして、ジジイと隠し通してきたんだな。」
ある日、二人が暮らす旧男子寮の一室でぽつりと燐が零した言葉。
いつものうるさいばかりの兄らしくない、まるで独り言のような小さな声だったからなのか、余計に雪男の心に深く響いた。
雪男にしても、隠して養父と修業をしたりなど、兄がうらやましがるだろうことをしていた後ろめたさもあったため、つい意地を張ってしまった。
「別に隠していたわけじゃないよ。兄さんが鈍くて気が付かなかっただけでしょ。」
「……夜遅くまで、図書館で勉強してるとか嘘ついてたのにか?」
「嘘じゃないよ。ちゃんと図書館で勉強もしていたから。ただ毎回でないだけだし、第一、兄さん自体が喧嘩ばかりで家のこと気にしていなかっただろ?」
確かに喧嘩のことを出されると燐の分が悪かったが、その喧嘩だって悪魔の力が抑えられずに起こっていたようなものなのだから、話してくれたらと今更ながらに思ってしまうのだ。
まあ実際、話してくれても変わらなかったかもしれないけれど…
「…お前だったらどうなんだよ。自分のことを知っていたいと思わないのか?」
そう兄に言われて、確かに自分が悪魔の力を継いでいて、それを内緒で陰で養父と兄が自分を守るために修行していたと後で知ったら、決していい気持ちはしない。
話してほしいと思うだろう。
しかし今それを口にするわけにはいかなかった。
兄に内緒にしていたからこそ起こってしまったといってもいい事実を、雪男は認めたくはなかったのだ。
「僕だったら気づいていただろうから、まず話として成り立たないよね。兄さん、隠し事できないじゃないか。」
そう切り返してきた弟に、兄は何か言おうとして動かした口を、開けたまま固まってしまった。
見様によってはかなり間抜けな顔に見える兄に、クスッと笑って弟はこの話は終わりというように背を向けて、仕事の続きを始めるのだった。
兄の瞳に決意の光が灯ったことにも気づかずに。