駄文
□もう、お前の嘘は聞きたくない。
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俺は15年間、知らずに生きてきた。
俺は人間の敵である悪魔の王青焔魔の落胤で、悪魔だということも。
双子の弟が俺のせいで悪魔が見えてしまい、それに立ち向かうため祓魔師になった事も。
養父が最強の祓魔師で、その力で俺を守っていてくれたことも。
俺は何も知らなかった。
そして俺は知ったことにより親父に暴言を吐き、親父を永遠に失った。
大切で守ってやりたかった弟に「死んでくれ」と言われた。
牙が生え、耳がとがり、しっぽまで生えて体が完全に悪魔と化してしまった。
あの悪魔が見えた日、「行け」と言われた親父に、どうしてなどと聞かなければよかった。
昔から親父の言葉に反抗ばかりしてしまったから、あの時も素直に従えなかったけれど、何も言わずに、親父に従っていればよかった。
そうしたら、親父も生きていて、雪男も優しいままで、俺も人間で居れたのかな。
ある日そう思い立って、俺はもう質問することをやめた。
目に見たもの、心に感じたこと、耳で聞いたことを誰かに伝えることをやめた。
学校では監視役として常にそばに居ようとする雪男に、思いを寄せる女の子たちから俺は、「邪魔だ」と憎しみのこもった目で見られていたけど、黙っていた。
それが陰湿ないじめに代わっても黙っていた。
雪男には笑顔で話しかけるのに、俺を見る目に侮蔑を浮かべる教師が居たけど黙っていた。
聞くに堪えない嘲りの言葉は、雪男が居ない時を狙って祓魔師から聞こえてきたけど黙っていた。
それによって俺の心が悲鳴を上げても黙っていた。
俺が唯一俺で居られたのは、俺の正体を知ってもまだ俺と友人で居てくれた祓魔塾の同期の前でだけだった。
そんな彼らに心配をかけたくなくて、彼らにも黙っていた。
剣の師匠をしてくれているシュラは、勘の鋭い人で俺の様子に気づいていたけど、
「言いたくなったら言えよ。酒のつまみに聞いてやるからにゃ。」
俺を追い詰めないようふざけた口調で言ってくれたので、ありがたく黙っていられた。
寮に帰ればクロが出迎えてくれて、そのぬくもりに癒されて黙っていられた。
夕飯の支度をし、出来上がるころ弟が返ってきた。
弟には初めから話す気はないので、当然黙っていた。
塾生とシュラとクロに癒してもらったから、一日の濁りを弟に隠すのも苦ではなかった。
こうして一日が終わり。
俺の中に少しずつ濁りが溜まっていく。
いつかそれが俺を蝕んで、俺という存在を壊してくれることを望みながら。