駄文
□チョコレート
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「奥村君、あの、これ…」
「受け取ってくれる?雪男君」
「ちゃんと手作りだから!」
2月14日、この日奥村雪男は改めて自分が女の子にもてることを再認識させられた。
「義理だから…あげる」
そして、同日、その兄奥村燐は生まれて初めて女の子からチョコレートをもらった。
義理だろうとなんだろうと、バレンタインデーに女の子からチョコレートをもらったのなど初めてのこと。
しかもなんと8個も手元にあるのだから夢のようだった。
きれいにラッピングされた箱をうれしくてしばらく眺めていたのち、大事に丁寧に包装を開いて、ゆっくりそれをくれた女の子の顔を思い浮かべながら味わった。
幸せだった。
そして、一ヵ月後のホワイトデーに向け、大好きなアイスも我慢してお返しのために貯金をしはじめた。
さすがにこれを弟からもらう生活費から捻出するのは気が引けたのだ。
お返しは何にしよう?
クッキーがいいかな?
マカロンってのも面白いかも?
マシュマロなら材料費安く済むかな?
昔は修道院のイベントで作ってはいたけど自分はいつも裏方だった。
こんな喧嘩ばかりする不良が作る菓子と分かったら、みんなもらってくれないと思ったからだ。
でも今度は燐自身にもらえたものにお返しするためのものなのだから、目一杯技を利かせここぞとばかりに力を発揮して、おいしいものをつくろう。
うれしかったお礼の気持ちを込めて、金額では無理だけど、味の方で3倍返しをしよう。
燐は燃えていた。
そんな、8個のチョコにウキウキ気分の兄の横で、手提げ袋8個にわたるチョコを貰った弟はたそがれていた。