駄文
□思い出
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「兄さん、いい加減にしてくれる?」
しみじみ疲れきった様子で、雪男は正面に正座させた兄燐に向かって言った。
その手には、一桁の数字が赤く大きくかかれたテスト用紙が握られていた。
「わ、悪いとは思ってるよ。だけど、椅子におとなしく座ってると、つい、寝ちまうんだよ。」
「おとなしく座ってるわけじゃなく、勉強してくれ!」
「だから、じっとしてると…」
だんだん、部屋の空気が怪しくなりはじめた時、雪男の携帯が任務を告げて、今回は事なきを得た。
しかし、燐は改めて考えた。
自分はあまりにも雪男に迷惑をかけている。
今回は言われる前に終わったけど、いつもこの種の論争になると、雪男が馬鹿な俺の為にどれだけ苦労しているか、そして最後は勉強に関係無い、俺が無防備だとか無自覚だとか訳の解らない説教に変わって喧嘩になるのだ。
無防備、無自覚は別として、確かに俺は雪男に苦労させてると思う。
それでなくても悪魔の兄、しかも魔神の落胤なんてとんでもないオプション付きだ。
俺には気付かれないようにしているが、あいつ自身かなり風当たりが強いようで、任務ではなく、人間関係で疲れ果てて帰って来ることもたびたびあるようだった。
俺はもっと自立しなければいけないのだろう。
でも目の前に見慣れた優しい弟の顔があると、つい甘えて苦手な座学を頼ってしまうのだ。
少しづつでも弟離れをしなけりゃいけないななんて考え込んで、また勉強を忘れていたらシュラから大変な連絡が入った。
雪男が任務中、意識を失って倒れたというのだ。