駄文

□不信
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Side燐

 俺は、人間じゃない。魔人の落胤で悪魔だ。
 といっても、生まれつき悪魔だったわけではない。

 ついこの3月までは、普通(というには、力が強すぎてキレやすい乱暴者だったが、)の人間だったのだが、俺の親父だと言い張る青焔魔のせいで、15年間実の子どもと変わらない愛情を注いでくれていた神父を死なせてしまったとき、俺自身も悪魔の体に変わってしまった。

 そして俺は、優しくて穏やかで頭もよく、15年間俺の自慢の弟だった雪男が、実は俺のせいで魔傷を受け悪魔が見えるようになり、怖い思いをしながら退魔の訓練を受けていて、祓魔師として活躍している事を知った。

 俺の事を危険対象だといい、神父を殺した憎むべき悪魔だといい、いっそ死んでくれと言われた。

 そして銃を突き付けられた、心底冷え切った冷たい眼差しで。
 その目を向けられたとき、フッと前からどこかでその目を感じたことがある事に気付きたんだ。

「弟とは戦わない。」と強がり、精一杯の虚勢を張りながら、どこで…と過去を思い出していたら、記憶の端々に俺を影からみている雪男の姿が浮かんできた。

 俺から姿を隠すようにしながらどこからか俺を見つめる目。

 喧嘩三昧で気配を読む事だけは長けていた俺にして、かすかに感じるくらいの気配だったので気のせいで済ましてしまうこともあったけれど、今思えば俺が感じたときはきっと雪男が今のような目で俺を見ていたんだ。

 それに思い当った時、俺の中の弟は、ガラリと姿を変えてしまった。

  『死んでくれ』と言われたのは今だが、実はこいつは俺の事をずっとそう思っていたんだ。

 いつもいつも陰から様子をうかがいながら、死んでほしいと思っていたんだ。

 俺のせいで怖い思いをし、進むべき道を変えなければならなかったのだから憎む気持ちはわかる。

 申し訳ないとも思う。

 しかし、それならいままでもそういう態度をとっていてくれればいいじゃないか。

 暴れん坊の兄を心配しながら傷の手当てをする優しい弟の振りなんかしないで、嫌いだと、憎いといってくれればよかったじゃないか。

 いくら俺に俺が魔神の落胤であることを隠しながら、祓魔師の訓練をしているからって、憎む感情まで隠す必要はなかっただろう?

 そのくせ影から冷やかに俺の行動を観察するなんて事しているくせに。

 そうしてくれれば俺は神父をなくし、身体が悪魔に変わり、それだけでもショックなのに
そのうえ、誰よりも愛し信じていた弟に憎まれていたなんて一度にそんなダメージを受けずに済んだと思うんだ。……
 そんな風に昔の雪男を思い出してくると、もしかしたら、これを実は雪男は最初から狙っていたんではないだろうか。

 神父が死んでしまったのは、想定外だとしても、悪魔の体に変わってショックを受けている俺に憎んでいたことを知らせて、さらにダメージを与える……

  小さいころから怖い思いをし、つらい思いをしながら祓魔師の資格を取っていたとき、能天気に喧嘩三昧だった俺を憎んで、恨んで、一番ダメージを受けるだろう方法で伝えるための作戦だったのではないだろうか。

 そのようにしか思えなくなってきてしまった。
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