旅日記

□乙女な俺?
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「あったまいてえ。ここどこだよ」

 無事、次元は渡れたようだが、なんにせよ初めての事、力に変に負荷がかかりそのせいか頭痛がする。

 体もだるいし、どこかで休みたいのだが、どこへ行っていいかがわからない。

 メフィストにさんざん言われたのだ。

 行った先はどこが違うかわからない、こちらで味方だったものが、敵になっているかもしれない。

 だから、細心の注意を払えと。動くときは状況を把握してから動けと。

 確かに今、敵に襲われたら、大分ダメージを受けそうだ。

 ともかく何をするにしても、この体を休ませなければと思い、メフィストの屋敷に向かった。

 とりあえず次元渡りが成功したら、その世界のメフィストに会いに行けと、メフィストが言っていたからだ。

 虚無界が物質界にとって悪である世界ならば、悪魔であるメフィストの基本姿勢は変わっていないはずだからだというのだ。

「わりい、メフィスト。ちょっと休ませてくれ。」

 理事長室に飛び込むなり、そう言ってソファに倒れこむ燐にメフィストは驚いた。

「どうしたというのです。奥村君?…奥村…君、あなた、どこの奥村君です?」

 さすが、名誉騎士にして200年以上騎士團に協力する悪魔、燐の違いに気が付いた。

「後で全部説明する。ともかく頭が頭痛で、すっげえ痛てえんだ。」

「…おかしな言い回しですが、解りました。後で詳しい説明をしていただくとして、ともかく奥の寝室に行って休みなさい。」
 

 なんとかその日の避難場所は確保できたが、ベッドに潜り込みながら、次回はもう少しセーブしようと一人反省会をする燐であった。

 そのまま、体力回復するまでに丸一日かかり、体力宇宙の燐がこれでは、確かに普通の人間には無理だと思った。

 こちらの世界のメフィストが食事を用意してくれたので、ありがたく頂戴しながら事情を説明した。

「なるほど。それであなたはこちらの奥村燐を鍛えに、次元を超えてきたというのですね。」

 パラレルワールドをすんなり受け入れるあたり、やっぱりメフィストは普通ではなかった。

「ああ。サタン倒したってのに、いつまでも虚無界の勢力が落ちねえんじゃ困るんだよな。で、こっちの奥村燐はどうなんだ?やれそうか?」

「……無理ですね。」

「は?なんで?まさかこっちの奥村燐は悪魔じゃねえとか。焔の力継いでねえとか、そんななのか?」

「いえ、悪魔には覚醒したばかりですが、焔の力も継いでます。ほぼ、先程あなたから聞いたあなたの世界と違いはないと思いますが…」

「じゃ、なんで無理?」

「奥村君が、乙女すぎます。」

「……奥村燐が乙女?ここの俺は女だったのか?」

「いえ、男の子ですが、恋心に振り回されて修業がおろそかになってまして…」

「恋心だあ?ふざけんなって…言いたいけど思春期だもんな。相手誰よ?しえみ?出雲?まさかシュラなんてことねえよな。」

「…奥村雪男…」

「………弟以外にもそんな名前の奴いるんだ。しかも女子にしてはごつい名前。」

「いえ、この世界のあなた、奥村燐の双子の弟の男の奥村雪男が、奥村君の恋の相手です。」

「…………やめてくれよ。そんな冗談。…冗談だよな。…冗談って言ってくれよぉ」

 燐は涙声だった。

 何が悲しくて実の弟の、しかも男に恋なんぞセにゃならんのだ。

 それもよりによってあの超めんどくさい、隠れ引きこもり男に。

 それともこの次元の雪男は、優しくて誠実で明るくて、勉強は普通の出来だがみんなの人望熱い、そんな奴なのだろうか。

「あなたに聞いた話から察するに、この世界の奥村雪男もそちらと大差ないですよ。」

「じゃあ、一見、背が高く勉強ができ真面目で誰にも彼にも笑顔で接するモテ男風でありながら、実は誰にも心許さず、常に張り付いた笑顔で当たりを煙に巻き、サディストで腹グロで策略家で、そのくせ甘えたしぐさで周りを味方につける、陰険隠れ引きこもりなのか?」

「さすが実の兄。的確な批評ですね。」

「なんでそんなのに、恋なんてしてんの?この世界の俺?」

「弟可愛いフィルターと、今まで隠されて知らなかった祓魔師として働く姿のかっこよさと、後は悪魔になってしまった自分が捨てられたくない、今まで迷惑かけたことを償いたいが混然一体ってとこですかね。」

「15になって、180なんて俺より7センチも高い男を、いくら弟だからって可愛いってのもすでにおかしいけど、隠して先に親父に修業してもらってんだから、祓魔師として働いていて当然なんだし、それをいちいちカッコいいとは思わねえけどなあ。」

「まあ、普通の兄弟はそうですよね。」

「悪魔に為っちまったのはしょうがないし、悪魔に為った以上、どうせ雪男と同じ時間は生きられないんだから、捨てるも捨てられるもねえじゃねえか。迷惑かけたって、祓魔師にしちまった事かな?」

「そうですね、自分のせいで悪魔が見えて怖い思いをさせた。祓魔師なんてきつい仕事をさせてる。全部自分のせい、とか思ってるんでしょう。」

「なんだそれ?悲劇のヒロインかってえの。雪男だって魔神の落胤なんだ。力が出なかっただけで、騎士團に知られればあいつも監視対象、下手すりゃ処刑対象なのを、親父が早くに祓魔師として力つけさせたから、信頼も得て生きてられてんじゃねえか。そのくらい考え付けよ。俺。」

「こちらの奥村君、かなり馬鹿ですけど、あなた違いますね?」

「いや、俺も馬鹿だったよ。こんな風に考えられるようになったのも、結構最近になってからかな。でもそこまで、雪男に罪悪感持たなかったし、第一あいつに恋心なんて持たなかった。何が、どうしちゃったんだろうな?」
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