旅日記
□パラレルワールド?
1ページ/2ページ
この世には今自分たちが存在する世界と並行して、いくつもの世界が存在するらしい。
次元を超えて、われわれのいる世界とそっくりな世界が、時間軸に並行して存在している 。
ただそっくりとはいっても、どこか小さな違いがあって、その違い故平行に存在し、交わることがないのだと。
いくつあるのかわからないが、すぐ横にある平行世界と、ずっと遠くにある平行世界では多分この世界との違いに大きな差があるのではないか。
近いほど、差は小さく、遠いほど差は大きい。
そして交わらないとはいえ、隣の世界の出来事は多少なりともこちらに影響を与えるだろう。
こんなわけのわからない講釈を、奥村燐が日本支部長メフィスト・フェレスから受けたのは、魔神を仲間たちと力を合わせて何とか倒してから、一ヶ月ほど経ってからだった。
今、燐は26歳になり、焔も完璧に操り、そして人間とのハーフ故なのか、人間の生命力が焔をパワーアップさせ、魔神を上回る力を軽々使いこなすようになった。
祓魔師としても実績を重ね、もともと器用なたちだったのが焔の使い方にも反映され、悪魔憑きでも取りついてる悪魔だけ燃やすとか、悪魔に取りつかれている間に起こした事件の記憶を燃やすとか、そういった精神攻撃に近い技まで使えるようになっていた。
ただ、その技を使うには、取りつかれた人間が完全に悪魔を拒否するとか、その記憶があると精神に障害をきたす危険性がある場合など、使用に制限があるのだが。
それでもその技が、今まで悪魔ごと人を払わなければならず、苦い思いをしたことのある祓魔師達には歓迎され、説得に時間をかけ悪魔を拒否させて祓うことで人的被害が減って、燐は多くの現場で受け入れられ、信頼してくれる仲間も増えて、魔神討伐が成功したのだ。
それなのに、虚無界の影響はまだまだ強く、何が原因かとメフィストに相談に行ったらそんなおとぎ話を聞かされた。
「なんだよそれ?俺は虚無界の話できたんだぞ。それなのに次元とか、平行世界とかわけわからん。」
魔神と戦うには正攻法だけではだめだと、シュラたち上級祓魔師達から裏ワザやからめ手を教えられ、そういった実戦で鍛えられたせいか昔に比べてだいぶ頭の回転は速くなったが、それでもこのメフィストの話は掴み辛かった。
「ですからあなたの疑問に、一つの可能性を示唆したんです。もしかしたらと」
「虚無界が、魔神が消えても勢力が衰えないのは…」
「はい。平行世界の影響ではないかと。」
日本支部長であるメフィストの事務室で、玄米茶とわらびもちを食べながらの会話であった。
子猫丸の影響で和菓子にも造詣を増した燐が、本物の蕨粉が手に入ったと作ってきたものだ。
だから、そのメフィストのセリフに、思わず黄粉を吹いても仕方なかった。
「ちょっと、奥村君。あとの掃除が大変なんですから、やめてください。」
「だってこれが吹かずにいられるかよ。じゃ、俺たちが命がけで魔神倒しても、意味ねえってことじゃん?そんなよその世界のせいで、俺たちの努力無駄にされたら、俺、黄粉どころか焰吹くぜ。」
「やめてください。あなたの場合冗談で終わらないんですから。」
「その平行世界とかにも俺がいるんだろ?で、そいつが魔神倒せてねえってことだろ?何やってんの俺。」
「まあ、すべてが同じではないですから、いろいろ事情もあるのでしょう。」
「事情って?たとえば、俺の力が弱いとか?俺の意思が弱いとか?」
「そうですね、力は意思が反映しますから、気持ちに弱いものがあるのかもしれませんし、大体こちらとどの程度違うか判りませんから、何とも言えません。」
「ちっくしょ〜。俺が行って代わりに倒せるなら、倒しちまうのにな。」
すると、メフィストがフッと思案顔で言い出した。
「試してみますか?次元越え。」
「ふえ?だって交われないから、平行世界なんだろ?」
「あなた、魔神を倒す時も力セーブしてましたでしょ?」
「そりゃ、あんまり目一杯やって、虚無界壊したら物質界にも影響あるって、おまえが言うからさ。」
「そう、あなたのパワーは今や虚無界を壊す勢いです。それを使って次元に穴をあけ、あなたが別次元に行くのです。」
「おー。で、俺がそこの魔神をちゃっちゃと倒して「はだめです。」…え、なんで?」
「その次元はその次元の者が手を付けなければ、本質的には変わりません。あなたが影響を与えられるとしたら、その次元の奥村燐と、もしかしたら奥村雪男、位でしょう。」
「?俺は判るとして、なんで雪男?」
「曲がりなりにも双子ですからね。あなたの力の影響を受けると思いますよ。奥村燐ほどではないとしてもね。」
「じゃ、行っても仕方ねえじゃん。」
「いいえ、その世界に行って、魔神を倒すべき奥村燐がなぜ倒せないのか原因を突き止め、それを取り除けば、その世界の奥村燐が魔神を倒してくれるでしょう。」
「ああそうか。もし、力の使い方がわからねえなら、俺教えてやれるもんな。」
「そうです。そうして幾つかの次元で試してみて、その結果、こちらの虚無界が弱れば仮説は合っていたということです。」
「もし、それでも弱らなかったら?」
「また別の仮説を試して見ればいいでしょう。あなたと私には時間だけはあるのですから。」
「まっ、確かにな。」