御礼
□過去拍手
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「今日はお前に料理を教える。」
ある日、奥村燐は双子の弟奥村雪男にそう告げた。
「えっ?なに、急にどうしたの兄さん?」
「急にじゃねえよ!昨日のこともう忘れたのかよ?!」
「ああ、あの事故。兄さんまだ気にしてたんだ。」
「……事故で済ます気か、ホクロメガネ」
実は昨日、燐が祓魔師の任務で帰りが遅くなり、任務のなかった雪男は夕食を作ってなかったことを幸いとして自分で作ろうとしたのだ。
ただ、兄燐があまりに完璧に料理をこなすので、自分としては必要性を感じなかったので、今まで調理場に立ったことがなかった。
学校の家庭科の授業も、そのころからもてていた雪男の気を引きたい女の子たちがこぞって調理をしたので、雪男は調理器具にさえ触れなかったのだ。
まあそうまでして作られた料理も、燐のプロの味で舌が肥えてしまった雪男には、物足りないものだったのだが。
だから雪男は知らなかったのだ。
自分に壊滅的に料理の才がないことを。
そんなこと疑いもせず、調理場に立った雪男は自分でも不思議なくらい自信満々だった。
あの、勉強ダメダメの兄ができることをこの努力家で天才と呼ばれる自分ができないはずはないと、確信していた。
そして結果、調理場は半壊した。
何がどうしてそうなったのか、雪男本人にもよくわからないのだが、コンロ周りを中心に燃え尽きた外壁と上からは溶けかけた屋根が垂れ下がっていた。
任務から戻った燐と同行していたシュラがすぐに連絡して大事には至らなかったが、原因も発生過程もわからず、当事者の雪男に至っては
「魚の煮つけを作っていただけです。」
の一点張りで、どうしようもなかったのだ。
だが双子の兄である燐はわかっていた。
過程はともかく、原因は雪男だと。
あの根拠なき自信が招いた惨事だと。
しかし弟はこりもせず、事故で済ます気だった。
「まず、基本として野菜炒め作ってみようぜ。」
「え〜、僕、金目の煮つけが食べたい。」
「お前が食いたいもんじゃねえ。お前ができそうなもんからだ。」
不満げな弟を黙らせて、野菜を用意する。
「野菜炒めは野菜の切り方や、火にかける順番を間違えなきゃそう失敗はねえからな。まず、ニンジン切ってみろ。」
「僕、ニンジン嫌いだから触るのも嫌。」
「だからって、皮もむかずに乱切りにするな!」
「つぎはたまねぎ。」
「わっ!目に染みる。目つぶって切っていい?」
「やめろ!危ない手が足が、わあああ俺が」
燐の頭に包丁がかすり、今回は終了。