旅日記

□閑話休題?
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 そんなある日、久しぶりに弟の雪男が訪ねてきた。

「兄さん。お腹すいた。なんか食べさせてよ。」

「…おまえ、ほんと変わったよな。昔はきっちりして『僕が兄さんを頼るなんてありえないよ』なんて言ってたのに、今はあいさつもなしに飯のおねだりかよ。」

「やだなあ。おねだりじゃないよ。僕が兄さんを頼るなんてないからね。ただ兄さんも久しぶりの弟を労わりたいだろうから、労わりやすくして上げてるだけじゃない。」

「ああ言えば、こう言うは治んねえんだなあ。…まあ、もう言い争うのも馬鹿らしいからいいや。」

「そう馬鹿な兄さんじゃ、僕に口では勝てないからね。」

 勝ち誇ってにこにこしている弟を見ながら、この間の異世界の燐を思い出していた。

(どうしてこんなのに惚れた?!)

 やはりそんな疑問しかわかなかった燐は、『馬鹿で口では勝てない兄貴』なりに、勝ちに行こうと上着を取った。

「そう俺は馬鹿だから、優秀で有能な医者の弟とは稼ぎも全然違うんだ。だ・か・ら、飯食いたいなら食材用意してもらわないと。し・か・も、有能なお医者様の弟が食べるものだから、お口に合う高級なものを買っていただこうっと。」

「な、何言ってるの?祓魔師として働いてる兄さんの方が給料は良いはずだし、僕は別に高級食材なんて…」

「馬鹿な兄貴が、優秀な弟を労わる方法なんて、そんなことしか思いつかないよなあ。」

 昔は言われるたびに怒鳴り返していたけれど、自分が雪男より頭が足りないのは確かだし、かえっってそういう雪男のセリフを利用したほうが、燐に有利に事が進むことに気が付いてからは、あまり逆らわなくなった。

 まあ、そう気が付いたのは離れて暮らすようになってからなので、雪男自身はそんな俺にまだ全然慣れていないようだ。

「ずるいよ、兄さん。人の揚げ足とるなんて…」

「おまえがいつまでも、俺を見下すからだ。」

「僕がいつ兄さんを見下したって言うんだ?人聞きの悪い事言わないでほしいな。」

「祓魔塾時代の同期や先生たちに聞いてみろ。確かに俺は馬鹿だったけど、おまえの態度も結構なもんだったって言われるぜ。」

「え〜。そんなこと絶対ないって。」

「おまえ、自分がドンだけ俺に対して俺様態度だったかわかってねえだろ?その性格直さねえと、彼女なんて夢のまた夢だぞ。」

 彼女の話をした途端、雪男の動きが止まった。

「ゆ、ゆきお?」

「そうさ…僕は、僕は冷たい男なんだ。」

 そう言って、俺にしがみ付いて泣き出した雪男は、ガッツリ酒の匂いがした。

 ああこりゃフラれたなっと、過去何度か起こったパターンだった。

 あんなにモテモテだった雪男なのに、特定の女子と付き合いだすと途端に振られるようになった。

 でも、モテモテだからすぐ次ができる。

 多少女性不信でも、知り合って何度か会ううちに付き合う気になるらしいのだが、そうしてしばらくするとフラれるのだ。

 まあ、フラれる理由なんてなんとなくわかる気はするが、あえて聞かずにほっといてやることにしている。

 兄弟としての情けだ。

 そして明日の朝、二日酔いに痛む頭を抱えて、それでも俺の作った朝食を平らげて雪男は帰っていく。

 そこでフッと気が付いた。

 俺が次元渡りしている間に、雪男が振られたら、あいつどこで酔っぱらってるんだろう?

 どこぞで迷惑かけてなけりゃいいけど、まあ、外面気にするあいつがあの醜態をさらせる相手がいるなら、それはそれでいい事だろうと、相手の迷惑を棚に上げて、俺は自分を納得させる。

 面倒な性格の弟を持った兄貴は、兄なりに面倒事の棚上げ法を覚えてしまった。

 大人になるって、汚れる事だねと、言い訳しながら…


 燐の使い魔は青い蝶になった。

 燐自身はもっとかっこいいものがいいと、虎とかライオンとか言っていたのだが、そんなものがそこら歩いてたらそれだけで大騒動だと、シュラに却下された。
 

「それにあんまりでかいもん作ると、それだけでエネルギーが奪われる。小さきゃ小さい方が効率はいいんだ。」

 蛇を使い魔にしているシュラのアドバイスは、燐にはありがたいものだった。

 そして、実際青い焔を使って作る蝶は、幻想的で美しく、見た人すべてに好評だった。

 まあ見た人というのが、燐の計画に加担しているものだけなので、ある意味身贔屓もありそうだが。


 ともかく、蝶を一匹こちらに残し、シュラの使い魔と意思疎通できるようにして、燐は次の次元に飛び立つことにした。

 今回は力を調整して、向こうですぐに動けるように気を使い。

 使い魔による通信が可能かの実験もかねての、新しい挑戦にワクワクしながら燐は飛び立った。

 行先で、どんな地獄が待ち受けていようとも、今の燐に怖いものはない。

 この次元の平和のため、大切な仲間を守るために、力を尽くしてくれる人たちがいるのなら、どんな困難も燐は乗り越えられる気がするのだ。

 そして、メフィストの協力を得て、また新たな次元を目指すのだった。
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