駄文

□離婚原因第1位
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 言葉ではもう説得できないと踏んだ雪男は、いきなり燐の細い腰に手をまわし、思いっきり抱き込み、燐の口をおのれの口でふさいだ。

 酸欠になるほどの長い口付けで、燐の意識が朦朧としたところをベッドに押し倒し。そのままHに持ち込んだ。

 実生活でもSっ気満載な雪男だが、ベッドではさらにタガが外れて俺様王様になってしまい、いつものように燐を目一杯『いや』と『恥ずかしい言葉』で攻めまくった。

 翌朝、雪男の机の上には、どこで知ったのかわからないが、三行半の用紙が置かれていた。

 半泣きになりながら、三行半を握りしめて、メフィストの所に飛んでいけば、

「いや、あの悪筆の奥村君がこれだけきちんと読める文字を書くということは、よっぽど本気なんですね。」

 と、雪男も思った通りのことを言われた。

 思ったけど怖すぎて口に出さなかったのに、あっさり人の口から言われると、余計実感が増す。

 昔から敵わないと思っていた兄に、意見されるとどうしても対抗意識が出てしまい、どんなことでも、たとえどれだけ兄が正しくても、言い返してしまう癖はもう雪男にとっては当たり前の事だった。

 ただそのせいで、兄を傷つけたり、大げんかに発展することも何度かあったが、いつも昨晩のようにHに持ち込み、なあなあのうちに仲直りしていたのだ。

 しかし今回は、自分を直すと言って謝っても切がなさそうな事態に、いつもの作戦に出てしまった結果、やめると改めると言ったことを思いっきりしてしまった。

 その結果の、燐からは信じられない位に、丁寧な文字で書かれた三行半。

離別状。
この度、双方協議の上、離縁いたします。
したがって、今後あなたが誰と縁組みしようとも、
私に異議はなく、翻意することもありません。
以上、本状を以て離別状と致します
奥村燐   奥村雪男殿

「文章も一文字も間違いなく、見事なものです。教育者として、奥村君にちゃんと教養が付いていることに、先生方の奮闘ぶりがうかがえて、嬉しいかぎりです。奥村先生も講師としてご苦労されてましたから、感慨深いものがあるのではないですか?」

 悪魔な理事長は、雪男の焦りを知りながら、どこかうっとりと、それこそ感慨深げに話している。

「僕は、こんなものの書き方教えた覚えはありません。こんなもの祓魔師として必要ないでしょう?」

「いやいや、離別ではなくても、悪魔との契約は正式なものを使うほど、効果は増します。普通の紙よりは羊皮紙。インクより血文字。そして簡易な文章より、正式な言霊。それからすればこの離別状は、まこと正式な契約書。奥村先生がこの先どなたと縁組しようと、奥村君は構わないということです。」

「…つまり、兄は僕を縛らないということであって、僕が兄を縛るのは自由ですよね?」

「妻が離縁を望むのに、離縁状を書かないのは夫の恥だそうですが?」

「夫が望まなければ、離縁状書く必要ないじゃないですか。」

「離縁を望むのは大体において虐げられた方。奥村先生、思い当たることがおありなのでしょう?」

「……なぜ、そう思われるんです?」

「先程、半泣きで真っ青な顔で飛び込んでこられて様子から、原因は奥村先生かと?」

 図星過ぎて何も言えない雪男だった。

 終わる。
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