迷路
□05
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『…というわけなのデス』
「はぁ〜〜〜、相変わらず遥菜のお姉ちゃんはすごいねぇ」
『どういう意味よ』
「そのままの意味」
あの後、電話越しだと話しにくいということもあり、ファミレスに集合した。
オレンジ色のグラスに立てられたストローを指で弄りながら、目の前の少女は他人事のように―実際他人事なのだが―答えた。
『観察とか、される側のこと考えたら出来ないんだよね・・・』
「確かにその気持ちは分からんでもないけどね。ところで、黒子君の読んでた本って誰の作品だったの?」
『あ、聞いてないや』
「一応参考程度に聞いてみたら?」
『そうだね……あ、雨』
ふと窓の外を見ると、ポツリと水滴が付いているのが見えた。
「ありゃりゃ、通り雨かな?」
『かもね。まあ傘は持ってきてあるから良いけど』
鞄の中に入れてある晴雨兼用の折り畳み傘を頭に思い浮かべながら、残り一口分になったロールケーキにフォークを突き立てた。
「さっすがー。私持ってきてないから、相合傘しよ」
『傘はのんちゃんが持ってね』
「もちのろん」
『古い』
「ネタが分かる遥菜も大概だけどね」
やっぱりのんちゃんと話すのは気を遣わなくても良いから楽だ。自然と笑えているのが自分でもよく分かる。
いつからだろうか、実の姉相手でさえ、笑顔を作ることが辛く感じるようになったのは。
あの2人から距離をおくようになったのは。
俯いて、歩くようになったのは。
決して2人のことが嫌いになったわけではない。嫌いなのは、自分の心だ。
私の心は、あの雨空より暗く、くすんでいる。
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