迷路
□05
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某日土曜日。今日は学校が休みということもあり、遥菜は惰眠をむさぼっていた。
『・・・・・・ん、ふわぁぁ・・・』
ふと浮上する意識。寝ぼけ眼で俯せになり、上半身だけを起こして背を反るような姿勢で枕元に置いてある携帯電話の画面を見ると、表示されている時刻は10:13。思ったより随分寝てしまっていたらしい。しかし、これも休日ならではの楽しみということもあり、しばらくは布団の上で優雅な時間を過ごそうと仰向けに戻ったその瞬間、大きな音を立てて自室の扉が開かれた。
「遥菜――――!!!!どうしよう!?!?!?」
大きな音と飛び込んできたのは姉、さつきだった。髪の毛はしっかりセットされており、きっちり制服も着ている。部活も午後からのはずなため、遅刻というわけではなさそうだ。
『とにかく落ち着いて。何があったの?』
「う、うん……うわああああん!!!」
『全然落ち着けてないよ…』
突然ノックもなしに入ってきたことなど、目の前で涙をぼろぼろ流しながら自分にしがみつく姿を見れば吹っ飛んでいくもので。
とにかく何とかして落ち着かせようと、上体を起こしてさらさらで痛みも何もない綺麗な髪の毛を一定のリズムを保ちながら優しく撫でた。
『…落ち着けた?』
「…うん・・・」
まだぐずぐずと鼻をすするさつきにティッシュを渡すとありがとう、と受け取った。
『何があったの?』
「あのね、えっと…」
口ごもり、何か恥ずかしそうに、視線をあちらこちらに忙しなく動かしながらさつきは説明を始める。
『要約すると、さつきちゃんの好きな人に好きな子が出来た、と』
「出来た、じゃなくて、出来たかも!まだ確証はないんだけど…」
『さつきちゃんの好きな人って、黒子君だっけ?』
「何で知ってるのぉ!?」
慌てふためきながら顔を真っ赤にするさつきちゃんは、完全に恋をする乙女のそれである。
というか、黒子君にアイスの棒をもらったことを幸せそうに話したり、最近の話題の8割が黒子君のことなのだから分かりやすいのだが。頭は良いのに、こういうところでは変に鈍感なのだから馬鹿と天才は紙一重という表現はあながち嘘ではない。
『それより、何で黒子君に好きな人がいるかもって思ったの?』
「え?えっと、昨日ね、普段読まないような作家さんの本を読んでたから、珍しいねって聞いてみたの」
そしたら・・・
「あれ、テツ君いつもと違う人の本読んでるんだね」
「あぁ、この本ですか?少し…気になったもので」
「気になった…?この作者さん、人気なの?」
「いえ、…気になっている人が読んでいたもので、つい…」
「…その時のテツ君ね、すごく優しそうに笑ってたから、もしかしたら好きな子が読んでたのかなって…」
『うーん…でもそれだけだとまだ本当に好きな人が読んでたっていう証拠にはならないんじゃ…』
「ううん!これは女の勘だもの、当たってるに違いないわ!」
恋は盲目とはよく言ったものだ。拳を固く握りしめてわなわなと震えるさつきにばれないように、小さくため息を吐く遥菜。
「だからね?テツ君に好きな人がいるのか、観察してきてほしいの!」
『え?』
「あ、もう出ないと!遥菜、テツ君と同じクラスじゃない?それとなくでいいから!じゃ、行ってきます!!」
『あ!ちょ、さつきちゃん!?』
伸ばした手は宙を掴み、さつきは既に階段を駆け下りていた。
行き場を失った手は力なく布団の膝の上に置かれた。何がどうなったらこんなことになるのか。そして、相変わらずのマイペースさに溜息すらも出てこない。
『変なことになったなぁ…』
とにかく、友人に相談するべく、再び携帯電話に手を伸ばした。
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