生まれ変わる運命
□リング争奪戦
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なんて愛おしいんだろう、平凡な者の覚悟した瞳は。
先輩もそうだった。
だから、どんな説明でも受け入れる覚悟はその時にできていた。
お互いのことを話して数分。
「で、結局フォウ君って何!?」
「気になったのそこ!?」
ツナの叫びに私は驚いて叫び返す。
「いや、うん。」
今までの話を飲み込むように彼はそう言うとへにゃりと笑う。
「なんか納得した。
平和だなーって目をしてたりとか、皆より達観してるところとか…」
これが超直感というやつか。
「そっか。」
で、と話を促す彼にふふっと笑う。
「キャスパリーグ…って言ってもピンとこないか…」
私の先輩がそうだったように一般人にはピンとこないだろう。
きょとんとしている彼に微笑む。
しかしその横から黒い脚が突っ込む。
「エクスカリバーを撥ね退けて、アーサー王の鎧と鎖帷子を爪で引き裂いて、重傷を負わせて追い詰めたっつう、とんでもない魔獣だぞ。」
「おー、さすが家庭教師。」
物知りだねぇと私が言えば当然だぞとにやりと笑う。
その姿は赤ん坊にしか見えないものの強力な魔術がかかっているようにも見える。
「ま、カルデアにいた時には愛らしい謎の小動物って感じだったよ。
マスコット的な。」
私の言葉にエーと顔をしかめるツナはやはり一般人の感覚の持ち主だ。
だからこそ、平凡だけど私を見据える目は、握りしめた拳は、あの時隣で戦っていた先輩と同じ。
「で、『覆い隠し企みを成功に導く闇』だっけ?
いいよ、なってあげる。君の闇に。」
きっとこの組織にはカルデアも絡んでる。
渡された三つのリングとブレスレットが一体になったそれは私の令呪を模っているんだからそれは間違いないだろう。
たぶん何らかの特異点が初代の時代に発生し、そこで縁が結ばれたという事だろう。
でも、そんなことは関係ない。
ただ、平凡な彼が先輩に似てたから。
今度は護ってあげたかった。
体だけじゃなくてその心も。
*
翌日、嵐は獄寺君だったかと昨日ツナに聞いて書き上げたメモを見ながら深夜の並中へと向かった。
とはいえ、私は見つかってヴァリアーの集団に見つかるのも面倒でロビンフッドの顔のない王のスキルをお借りしている。
「いや、ほんと良かった。
英霊のスキルまで投影できるようになっておいて。」
一人呟くと持ってきたせんべいをかじる。
「あの時計の針が11時を指した時点で、獄寺隼人を失格とし、ベルフェゴールの不戦勝とします。」
11時まで、あと30秒。
時計を見てため息をつくとパリッとせんべいをかじる。
残りが数秒に迫った時、時計が爆発して粉々に粉砕された。
「派手な登場だこと。」
「お待たせしました!!10代目!!
―――獄寺隼人、いけます!!」
時間内に現れたためとりあえずは失格にはならないようだ。
今回のフィールドは3階全体。
ところどころに突風を巻き起こす「ハリケーンタービン」という装置が置かれているというのが今回のギミック。
制限時間は15分。
ちなみに私の場合は彼女たちがリングを取り出して38分だったらしい。
その微妙な数字は私の適応番号。
やっぱり、この組織にカルデアが関係しているのは間違いなさそうね。
ともあれ、どちらかが時間内にリングを手にしていなければハリケーンタービンに仕掛けられた爆弾に巻き込まれて両者失格。
「こんなことに命を懸けるなんて、愚かな…」
私は呟くと違和感を感じる。
彼らはそんな愚かなことに手を貸す人々だっただろうか。
じゃあ、なぜ…
「何だ?今のガラスの音は…?
けが人はいねーのか?」
私の思考を遮るように聞こえた声。
視界に映るのは説明していたチェルベッロの背後に立って、彼女たちの胸を揉みしだいている男。
そんな男にも2人は動揺を見せることなく後ろの男に無言の肘鉄を顔面に繰り出した。
「おーいててて…」
「何あれ?」
「うわっ!!いつからいたの!?」
私が思わずスキルを解除してしまえば驚いたようなツナの叫び声。
彼が2世代前のヴァリアーにスカウトされて、それを断ったほどの男であることやその名前をトライデント・シャマルという事を話すヴァリアーの男の声を聞き流しつつ、私はツナに笑いかける。
「最初から。
スキルで姿を隠してたの。」
そんなこともできるのと素直に驚く彼がかわいらしく私はふふっと笑う。
「それでは嵐の守護者以外の方は観覧席への移動をお願いします」
「さ、始まるよ。」
前回の雷のリング争奪戦でツナが妨害したらしく、今回は妨害が入らないように赤外線で遮断された観覧席に入れられる。
この赤外線があっては、万が一の時も助けに入ることはできない。
「それでは嵐のリング
ベルフェゴールVS獄寺隼人
バトル開始!!」
勝負が始まってからというもの、ハリケーン・タービンの影響とベルの隙のないナイフの雨に獄寺は攻撃できずに苦戦していた。
しかもベルのナイフは獄寺が何処に隠れてもかならず彼のもとへ流れるように飛んでいく。
獄寺もなんとか躱しているが少しずつ怪我が増えていき、ベルのナイフも攻略できずにいた
「うぐっ!?」
「あんな突風の中、見えない獄寺くんにナイフを当てるなんて…っ…」
焦ったようなツナの声に私は口角を上げる。
「この風の中であんなことできるのはベルくらいだよ。
ヴァリアーの中でベルは特に暗殺のセンスに長けているからね。」
「うししっ、もう大当たり?嵐の守護者がこれじゃあお前のボスも知れてんな」
身を潜めていた獄寺にベルのナイフが貫く。その痛みに耐えながら、獄寺は自分のせいでツナが侮辱されていることに拳を握りしめた。
「あら、もう勝った気でいるの?」
私の呟いた声はいやに響いた。
「なんだと?」
ザンザスという男がこちらに視線を向ける。
「あんな子供だましの単純なトリックで、買った気でいるのかって聞いてるのよ。」
苛立ったような彼に嘲笑を向ければ驚いたような顔をする。
「ちょっ!!レイちゃん!?」
慌てたように私を止めようとするツナに、私はにっこり笑って見せる。
「言ったでしょ、私は誰にも媚びる気はないの。」