生まれ変わる運命

□日常編
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私が笑って過ごせる世界、それが生き残るべき世界だ。
給水塔に上って空を見上げれば、その透明度は少し低いもののあちらとあまり変わらないように思えた。
護ったのがこの世界だったと言われても何も違和感がないような。

「はぁ…」

ふいに下から大きなため息が聞こえて、読んでいた本を閉じると覗き込む。
ススキ色のツンツンした髪。けして高くはない身長、大きな目。

「沢田?」

「藤宮さん?」

私は彼のへにゃっと困ったような顔に給水塔を下りた。

「は…初めてだよね、こうやって二人で話すの。」

「そうだね。」

ふいに鳴ったチャイム。
それでも彼の瞳になぜか動けなかった。
ため息を一つつくと空を見上げる。

「なんで、そんな顔してるの?」

かけられた声に沢田に視線を戻すと、彼は私を真っすぐ見つめていた。

「そんな顔?」

「あ、いや。気のせい!!」

忘れてという彼はうつむいてため息を一つ。
ため息をつく彼は先輩と少し違うかもしれない。
彼は感情を隠すのが得意だったから。
それでも

「縁は結ばれた…」

私の口からポロリと零れ落ちる言葉。
その声に彼は私を見た。

「だから、話くらい聞くよ?」

私の言葉に少し期待した瞳を向けて、それからふっと死んだ目になる。
どうやら、私には言えない事らしい。

「藤宮さんも、何かあるなら聞くからさ。」

自分が困ってるのに人の心配をする優しさはきっと強い世界じゃ生きていけない。
でも、

「負けるな。
こんな、強いだけの世界に負けるな。」

なんてねと茶化せば彼は驚いたように私を見ていた。

「藤宮さんは知ってるの?」

「何を?」

私は驚いたような少し怯えたような彼に首をかしげて返す。

「昔友人にそう言われて強くなれたから。
弱いから正しくないなんてことない。」

だから、よくわかんないけど頑張れと言えばチャイムが鳴る。
ふっと微笑んだ沢田はやっぱり先輩に似ていた。



帰宅途中、あと少しで自宅というところでふと気配に気が付く。

「どちら様?」

あいにく先輩と違って私は魔術師の家の生まれ、狙われることもあり人の気配には敏感だった。
へぇと感心する黒尽くめの集団。

「藤宮レイだな。」

「そうですけど、何か?」

私はいつでも投影できるように右手に魔力を回す。
黒尽くめの集団はニヤリと笑い、一台の車の方に一斉に視線を向けた。
一人の男が車に近づき、こう言った。

「ボス、ビンゴですぜ。」

車のドアに手をかけ、ゆっくり開けると出てきたのは金髪の青年。
とはいえ気は抜けない。
ロードエルメロイだって、遠坂の娘だって、若くして優秀な魔術師だった。

「おまえがレイか。
はじめまして、俺はディーノ。
リボーンの知り合いだ。」

"沢田綱吉の家まで案内してくれるか?"

そう言ったのは、金髪のとてつもなく格好いい青年。
彼の視線はこちらに探りを入れている。
真の狙いは彼の家に案内することではないだろう。

「知り合いならば家くらいご存じのはず。
何が目的ですか?」

もし彼が沢田の敵ならば彼は本当に強い世界と戦ってるのだろう。
私の言葉に彼は笑い出した。

「確かに、リボーンの言った通り食えねぇ嬢ちゃんだ。」

なるほど、彼は本当にあの赤ん坊と知り合いらしい。

「あからさまに怪しい集団にクラスメートの居場所を売ったりしません。」

お引き取りくださいと言えば彼らは笑って悪かったなと帰っていく。
その様子にひそかに投影して手の中に隠し持っていた投擲用の黒い医療用ナイフを消す。

「なんだったのさ。」

呟くと私は家に帰った。



「それより、リボーン。
あの子はなんなんだ?」

「あの子?」

ディーノがリボーンに投げかけた言葉にツナは反応した。

「藤宮レイのことだぞ。
それで、何があったんだ?」

ディーノは先ほど彼女に会った時のことを語った。

「ちょっと!?藤宮さんに何してるの!?」

「ツナ、おめーだって気が付いてるだろ。
藤宮は、普通じゃない。」

ツナは今日の会話を思い出してそうだけどと小さく呟いた。

「だから、俺が確かめたんだ。
俺を不審者と見極めてなおツナの家に案内するような奴かどうかな。」

ははっと笑う彼にツナは諦めたように肩を落とした。

「じゃあもういいんじゃないかな。
別にそういう子じゃないと思うよ。」

ツナの言葉に二人はどういう意味だとツナを見つめる。

「別になんでっていうのはないけど。
でも、藤宮さんは大丈夫だと思う。」

それは実のところ彼の超直観だった。

「でも、最期にちらっと見えたスカルペスは気になるな。」

「とりあえずは様子見だな。」

二人の結論にツナは一安心してため息をついた。
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