生まれ変わる運命

□使いたいネタ
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なんど彼の痛みを取り除こうとしただろう。
いくつもあるこのパラレルワールドでは私は存在しない。
勝機があるとすれば過去の自分を呼ぶ事。
まだ戦い慣れていない頃の自分を。
だから、その呼び水になるため彼は死ぬという。

「ねぇ、レイ。
仮死状態になるだけだって。」

私はそう笑う彼を受け入れられなかった。
まるでブラックバレルを使うたび自分の命を削っているのになんでもないようにふるまい、そうレポートに記載するあの人にそっくりで。

「ならば、私があなたを殺します。」

「君が犠牲になることはないだろ。」

私が笑えば悲しそうに彼は頷いた。
呆れたような理解できないような雲雀先輩。

「大丈夫です。
記憶も、思い出も、理由も何もかもがなくなってもきっと一つこの感情だけは残ってくれる。」

そんな言葉に綱吉は照れたように顔を赤らめ、雲雀先輩はやれやれと部屋を後にした。



打ち合わせの日。
そして私が魔術で記憶を消す日。
出会った時は目の前の少年だった彼は痛ましげに私に視線を向ける。

「どうして耐えられるんだ、こんなこと。」

私は記憶を消して本気で彼を殺す。
彼にはどんな攻撃でも私からの攻撃では死なない魔術をかけてある。
人生で最初で最後の誓いの日に。
だから仮死状態になっても死ぬことはない。
そしてそれは彼自身と私しか知らない。
そう何度も説明したはずなのに。
シャルロット・コルデーの血に塗れた笑みを思い出す。

「たとえ…」

あの時の彼女もこんな感情だったのだろう

「たとえそれがひどい傷跡になったとしても。
たとえそれがつらく悲しいい離別だったとしても。
これが、藤宮レイというありふれた魔術師の溺れるような初恋だったのです。」

彼女が昔いった言葉を思い出してなぞる。
そして私は自分に魔術をかけた。
記憶に鍵をかける魔術。
魔術師であった頃の記憶はそのままに、自身をサーヴァントと誤認する魔術。
彼の手の甲には令呪があるように見えるし、魔力のパスもつながっているように見える。
見えるだけで実際には私の魔力を使ってるんだけど。



召喚されたのだろう。
目の前の男の脈は速いように感じる。
よく覚えていないけど抑止の守護者になったのだろう。
であれば目の前の男は…

「貴方が私のマスター?」

「あ、あぁ。」

驚いたように首をかしげて聞いた私を見る彼に跪く。

「サーヴァント・プリテンダー。召喚に応じ参上した。」

待って、プリテンダー?
私、詐欺師ではないでしょ?
何でだと困惑していれば目の前の青年は私に手を差し伸べてくる。

「よろしく。
えっと、プリテンダー?でいいのかな?」

サーヴァントがその特性から自身の名を明かさないものだというのは知っているらしいものの、本当に魔術師なのだろうかと疑問が残る。
とりあえず差し出された手を取って握り返す。
彼に話を聞けば聖杯戦争が始まったわけではないが世界を変えるためにある男の前で一人の男を殺すのだという。
その瞳に嘘はない。
ターゲットと言われた写真に写るのは整った顔立ちの優しげな瞳をした青年。

「オーケー。」

そう言いながらも違和感が残る。
これから彼と会談なのだという彼について行けば白い顔に刺青をした男と写真の青年。
青年の後ろには何人か彼を守るように立っている。
話が進みそろそろかと私は手に魔力を回す。

「夜の帳、朝のひばり、夢の終わり。」

そう言って気が付く。
私がプリテンダーなのは人のスキルや宝具を使ってその名を伏せるからだろう。
私の体に満ちていく魔力に誰もが一瞬目を向ける。
誰も手を出せないまま私は彼を投影した刀で貫く。

「あれ、もう起き上がってこないんだ。
ふーん、そうなんだ。つまんないの。」

これなら私の召喚なんていらなかったのではとマスターを見ればなぜか少しつらそうにしている。

「てめぇ!!何してやがる!?」

「やだなぁ、私に触れないでよ。」

魔力を伴った手で振り払えば彼は吹っ飛ぶ。
殺した男の護衛だろう男たちは私を軽蔑したように見つめ、マスターの上司は楽しそうに笑っている。

「成功したんだ、正チャン!」

「貴方、碌な人じゃないんでしょうねぇ。
まぁ、そんな人の部下に召喚された私が言えることじゃないけど。」

彼の上司を睨めばそれでも嬉しそうに彼はにこにこと笑い続ける。

「スキルのせいで眠いから先に戻るわね。」

この後はマスターがこの場をどうにかするだろうと私が部屋を出ようとすれば、腕を掴まれる。

「ごめ…んね。」

死んだと思った男は息も絶え絶えにそんなことを抜かす。
ふと頬を触ると涙が流れていた。
サーヴァントは自分のためじゃなく人理のために戦うもの。
何回目の召喚だろう。
いずれにせよ、まだ慣れていないんだなと涙を拭いた。

「貴方、自分じゃない誰かが泣いているところを見たくない。
できるならその涙を止めたいって。
そんな理由だけで立っているんでしょう?
だから、自分がつぶれるのよ。」

私の答えに彼の護衛達がざわつく。
それでも私は彼だけを見つめて告げる。

「私はサーヴァント、使いつぶされる人理の守護者。
でも、そうね。
今度は貴方みたいな人に召喚されたいわ。」

そうすればかつてともに戦った英霊たちのようになれる気がするから。
人理のためにこの仮初の命を懸ける価値があると、そう言える気がする。
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