生まれ変わる運命

□黒曜編
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湿った空気が肌にまとわりつく。
仕方なくハンカチを取り出して汗を拭きながら思う。
何でこんな昼間に学校から帰宅しているのか。
なぜか並中の生徒が次々に襲われている。
絶対沢田に関する組織的な犯行だとは思うが、当の本人は笹川さんのお兄さんが入院したとかでお見舞いに行っており不在だ。

「藤宮、君も行くかい?」

今朝そう言って首謀者のアジトに乗り込んでいった先輩はまだ帰ってこない。
返ってこないという事はそういう事なのだろう。
気付いた事実と目の前の光景にため息を一つ。
とりあえず昼食でもと商店街に足を向けたのは失敗だったと頭を抱えながら、獄寺が相手にしている男に手を向ける。

「ガンド。」

「動かなっ…」

テンションの低そうな男は一瞬硬直し、その隙をついて私は獄寺の手を引いて路地に身を隠す。

「てめっ!」

「体勢を立て直したかったんでしょう?
お礼は?」

獄寺はそんな私の言葉に悪態をつきつつお礼を言いつつ再び飛び出していった。
いつか失うと知っていた、だからこそこの平和な一秒一瞬が愛おしくて。

「今生きてるのは、あの子のいるこの世界なんだよなぁ。」

爆発音を聞きつけたらしい沢田に獄寺は恐縮する。

「その辺に転がしといたんで… !?」

確かに倒したはずなのに、どこにもその姿はない。
代わりに黒煙だけが立ち込める。

「手間が省けた」

立っているのやっとの状態にも関わらず、千種は武器を構える。
その様子を路地裏から見ながら私はそれでも動けなかった。
だって、巻き込まれて、平和な日常を手放したくない。

「気をつけてください、奴の武器はヨーヨーです!!」

「そんな事言われても、怖くて…動けないよ…」

「な!?」

無情にも投げられる得物。
沢田は目を閉じて、襲いくるだろう衝撃に身構える。
恐る恐る彼が目を開くと、自分を庇って攻撃を受けた獄寺。
 
「十代目…逃げてください」

その言葉を最後に、胸から血を流しながら獄寺は崩れ落ちた。
私はただ見ているだけだった。

「ねぇ、さっきの奴もみてるんだろ?」

さっさと出てきなよと言わんばかりの声に私は路地裏から出る。
制服には魔術を組み込んでいない。
投影はできれば使いたくない。
ヨーヨーを操る千種に怯える沢田は私を見つけて驚いたように目を見開く。
逃げなきゃいけないと分かっているのに、足が竦んで動けないらしい彼に笑顔を向ける。

「さっきの…なに?」

「手品です。猫騙しみたいなもんですよ。」

動けなかったのも一瞬でしょう、といえば納得はしていない顔をする彼。

「レイちゃん?」

自分の保身と友人、どちらを取るか。

「大丈夫。」

近くに落ちていた獄寺のダイナマイトを手に取る。
さっきの彼の動作をまねるようにそれを投げればニット帽の少年は驚いたようにそれを避けた。
私の得意とする魔術は投影、その神髄は理解のスピード。
魔術を伴わない人間の動作のコピーなら問題なくできる。
しかし、放たれるヘッジホッグを避けようとすれば背後に沢田がいることを思い出した。

避けてしまえば沢田に当たる。

その可能性に気が付いて私の体は動きを止める。
それでも、その攻撃は私達には当たらなかった。

「滑り込みセーフってとこだな。」

「山本ぉ!」

気が付けばふぅと息をついて笑う彼に私も沢田も抱えられていた。

「藤宮も大丈夫だったか?」

こちらに顔を向けて笑う彼に頷き返せば彼は良かったと私の頭に手を乗せて振り返る。

「こいつぁ…おだやかじゃねーな。」

滅多に怒らない山本が怒っている。
しかしそれはニット帽の男にとってはどうでもいい事だろう。
山本に向かって武器を投げつけるも、山本の持っていた"山本のバット"で叩き切られた。
その行動を見た彼は、何かに気が付いたように武器を降ろした。
 
「お前は犬の獲物…。
もめるのめんどい………」

明確に誰が誰を狩るか決めているらしい。
統制の取れた指揮。しかしその人数は少ないのだろう。
そんなことを考えつつ私はその背中を見送った。

「あの、レイ、大丈夫?」

大切な友人すら守れず、縁が結ばれた者を見捨てる。
彼らが見たらなんていうだろう。

「藤宮?」

『ほんとにどうにも…どうにもならなくなったら俺に言いな。どこでも連れて逃げてやるからよ。』

生き残ることにかけては誰にも負けないとそういう生き方だってあると言ってくれたあの人は許してくれるだろう。
視線を上げれば心配そうにのぞき込む山本と沢田の姿がある。

「ごめん…腰抜けてた…」

そう苦笑いをして言えば手を貸してくれる沢田と行こうかと獄寺を背負ってる山本。

「ねぇ、沢田。」

沢田は私の呟くような小さな声にも反応して振り返ってくれる。
マイフレンドだと言いながら、私は彼のために剣を振るう事なんてできない。
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