生まれ変わる運命

□リング争奪戦
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「うっわぁ…」

目の前の信じ難い光景に、私の口からはドン引いたような声が零れ落ちた。
昼間まではいつもと変わらずそこにあったはずの校舎は窓という窓は目貼りされ、床も壁も無造作にぶち抜かれ、水の牢獄に様変わりしている。

ーとはいえ、まぁそっか、カルデアが関わってるんだもんな…

「なんでちょっと嬉しそうなの!?」

隣から聞こえた沢田の声に自分の顔が緩んでいるのに気が付く。

「いや、あの突拍子もない感じ、カルデアの匂いがしたから。」

「カルデアってそんなとこだったの!?」

そう言えば昨日の説明ではシリアスな面ばかり説明して、ハロウィンのあれそれや真夏のあれこれは言ってなかったなぁと遠い目をする。

「英霊になる人って、基本的にぶっとんだ性格だからねぇ。」

今日の主役は興味津々そうにあちらこちらへと目線をやりながら私たちの後ろを歩いている。
私は下の水の溜まっているところを見つめる。

「へー、なんか遊園地みてーだな。」

背後から聞こえるワクワクしたような声に私は呆れて振り返った。


「どうせ下の水の水位が上がってきて鮫とか放たれるよ。」

「何そのピンポイントな怖い予想!!」

ひぃと顔を引きつらせる沢田とそんなわけないだろとさわやかに笑う山本。

「そんな事より、レイってやっぱり強いのな!」

「は?」

やっぱりと言った山本に私は歩みを止めて彼を見つめる。
曰く以前彼ら絡みの不審者に襲われた際、鳥についていた監視映像。
その中継先には山本もいたらしい。
その時に使った無明三段突きを覚えていたのだという。

「早くて目が追いつかなかったぜ。」

「そりゃ、かの有名な剣豪の太刀筋ですから?」

「沖田総司、か?」

このド天然少年が知っているとは思いもよらず私は思わず声を出すことを忘れてしまう。

「あれ?違ったか?」

「あ、いや、そう。」

「なら納得だな!!」

二カっと笑う彼はどの程度私について沢田から聞いたのだろう。
そんなことを考えながら中へ入っていけば、説明を始めるチェルベッロ。

「これが雨の勝負の為の戦闘フィールド・アクアリオン。」

「特徴は立体的な構造。そして、密閉された空間にとめどなく流れ落ちる大量の水です。」

「最上階のタンクより散布される水は溜まって行き、勝負が続く限り水位は上がり続けます。」

「なお溜まった水は特殊装置により海水と同じ成分にされ、規定の水位に達した時点で、獰猛な海洋生物が放たれます。」

「レイちゃんの言う通りだったー!?」

吃驚するツナに対し、上から聞き覚えのある声が聞こえる。

「面白そーじゃん。」

「ヴァリアー!!!」

黒い団服を着たヴァリアーが、揃って上の階に立っていた。
ふと、獄寺を見たベルが自慢げに言う。

「うししし。
朝起きたらリングゲットしてんの。王子すげー。」

「くそっ、あんにゃろ!」

とは言いつつ、ベルも相当なダメージを受けたようで、包帯が至る所に巻かれ、松葉杖を持っていた。

「ケガ人とはいえ、腹立つ。」

先程も、ヴァリアー側の剣士に牽制されていた山本を見やれば彼は軽く竹刀を振りながら、随分と余裕そうだった。

「で、なんでそんな余裕そうなのさ。」

ため息交じりにジト目を向けてやれば彼はいつものさわやかな笑みを浮かべる。

「んー、親父が最強っつってんだから、最強なんだろ。
じゃ、大丈夫。」

どこから出てくるのか分からないその自信。

「はぁ、ちょっと意味が分かりませんね。」

ため息交じりに呟くと彼は私の頭に手を乗せてさわやかに笑う。
大丈夫なんて、何で言い切れるのだろう。
その実力差はもう彼が一番分かっているだろうに。

「それから、貴女は今後の観戦においては常にこちらをつけてください。」

山本を見送っていれば私は声をかけられた。
置いて行ったはずの蘭陵王からのバレンタインの贈り物。

「待って。」

「待ちません。」

「いや、魔力封じの魔術かかってるでしょそれ!!」

じりじりと近寄る彼女達から逃げるように後退りする。

「問題ありません。
魔術を封じるだけですので。」

なるほど、私が横槍を入れるのを阻止するためのものかと納得する。
渡してきた本人は本当に顔を隠す以外には何の効果もないと言っていたはずのそれに魔術封じなんてものがかかっているのは、ダ・ヴィンチちゃんのせいだろう。
という事はこの状況もお見通しという事だ。

「まぁ、シャーロック相手に出し抜けるとも思えないけど。」

しぶしぶそれをつけていけばすでに戦闘は始まっていて戦況はよくない。

「左腕に衝撃を受けてるね。
あれじゃしばらくは動かせない。
右目も見えない。」

「藤宮!?
って、何その仮面!?」

「魔術封じだよ。
今の私に期待しないでね。」

今使えるのは着ている礼装のスキルだけ。
見た目で不信感を抱かれても困るから白いシャツに青いリボンとスカートのそれ。
人間に対してガッツは意味がない。

「どぉしたぁ!継承者は八つの型全てを見せてくれたぜぇ。
最後に八の型、"秋雨"を放ったと同時に無残に散ったがなぁ!」

私がその言葉に歯噛みをした瞬間山本の表情が変わる。
まるで、勝ち筋を見つけたかのような笑み。
ぼそりと何かつぶやくと倒れていた山本はゆっくりと立ち上がった。


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