生まれ変わる運命
□日常編
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皆が反論しようとすると、リボーンが皆の口を押さえ、勝手に「勝負をうけてやる」と言ってしまった。
「何してくれんだよお前!」
「勝ちゃー良いだけの事だぞ。」
正論とはいえ無茶である。
腐ってもライフセイバーとなれば泳ぎに関してはプロである。
「藤宮の意思はどうすんだよ!!」
「私の…意志?」
そんなこと考えもしなかったというような顔をしてるレイにツナは言葉を続ける。
「藤宮を条件に出されたんだぞ!?
そんな景品みたいな…」
「なんで私より泣きそうな顔してんのさ。」
自分より泣きそうな顔をしてリボーンにつかみかかる彼にレイはふはっと笑う。
「優しいな、マイフレンドは。」
心底嬉しそうに笑う彼女は先ほどまでの圧なんてない。
*
「向こうに見えるたんこぶ岩を泳いでぐるっと回って来る勝負だ。
泳法は自由。
3本中2本先取で勝ちだ」
男の説明に、ツナ達は頷いた。
こちらの順番は山本が1番手、獄寺が2番手、ツナが3番手となった。
京子とハルがツナに「応援するね」と言っている姿を、レイは見ながらペンギンのだぼっとしたパーカーを羽織る。
「第一泳者、ヨーイ」
ーダァン!
ピストルの音と同時に山本と男の一人が海に走り出し、泳ぎ出した。
日々のトレーニングの事もあり、山本の方が男よりも速い。
一番に折り返す山本。
だが、山本は帰って来なかった。
「あれっ!?
山本が帰って来ない!」
「足でもつって岩影で休んでるんだろ?」
ーあの山本が足をつったくらいで帰って来ないだろうか?
レイは目を閉じて、魔力を目に回すと現在を見通すマーリンの目のスキルを借りる。
「あぁ、そう言う事。」
ーまぁ、大丈夫でしょ。
レイはそれを知るとふっと鼻で笑う。
「レイちゃん?」
「あれ、今目が紫だった気が…」
レイが呟けば振り返った二人は首をかしげる。
続いて獄寺が泳ぎ始める。
互角の泳ぎを見せた獄寺だったが、やはりたんこぶ岩を曲がってからは帰って来なかった。
山本と獄寺が戻ってこなかったが、そのままツナの番が来る。
スタートの合図が響き、ツナは男と海に向かって駆け出した。
溺れ、流される時の恐怖感。
あの怖さは、今でも忘れられない。
「(頑張らないと京子ちゃんが危ない!)」
あの男達のことだ。
きっと京子とハルを連れて行ってしまうだろう。
「(それに…
藤宮をあんな奴等に渡すなんて絶対嫌だ!
オレたちは友達なんだから!!)」
その想いだけで、手足を動かした。
ハッと気づけば、自分がちゃんと泳げていることに気が付いた。
その事にツナは嬉しくなった。
「誰かー!
うちの子を助けてー!」
その声に前を見れば、小さな女の子が流されているのが目に入った。
「ライフセイバーの出番です!
一時休戦にしましょう!」
ツナは慌てて男に言った。
男はツナを振り返り、ナンパ目的のライフセイバーで危険な沖まで行くわけないと言い出した。
「あーゆーバカなガキが溺れ死ぬのは自業自得っつーの。」
「なっ、そんなー!?」
そうこうしている間にも、女の子はどんどんと流されていく。
ツナは過去の自分を思い出した。
どんどん流されて行く恐怖。
もう戻れないんじゃないかと思うと、怖くて、不安で…
「あ〜も〜!」
ツナはそこから歯を食い縛り、女の子に向かって泳ぎ出した。
途中ウキの格好をしたリボーンが「死ぬ気弾は撃たない」とか言っていたが、そんなの関係ない。
きっと、体験しないと分からないのだ。
流されていく恐怖、なんて…
「お兄ちゃん!」
「もう少しだから…」
ライフセイバーの人が助けてくれる度、本当に嬉しくて…
「も…大丈夫!」
女の子の所までたどり着き、ツナは笑みを浮かべた。
あの怖さを知ってるからこそ、助けたい…
だが、そこでツナの体力が限界に達したようで、ツナの身体が沈み始めた。
折角、助けてあげられたのに…
「ボンゴレ的だな。」
リボーンが銃を構えるのとそれが舞うのは同時だった。
ふわりと舞ったのはレイが着ていたパーカー。
レイは水の抵抗なんて感じていないように泳ぐと二人を抱える。
「かっこよかったぜ、マイフレンド。」
「だから、そのキャラ何?」
レイの言葉に返すツナの声には覇気がない。
それでもレイが少し嬉しそうにするものだからツナは気が抜けたように笑った。
「へっ、そーはいくか。
岩影には後輩がたんまりいるんだ」
「後輩ってのはこいつらのとか?」
その声に二人が振り返れば、そこにはピンピンした獄寺と山本がいた。
二人の足元には二人を襲った男達の後輩達。
彼らがそこら辺の不良に負けるわけがない。
「くそっ」
男は海から砂浜を見て舌打ちした。
人が集まってる。
このままではツナとレイだけが目立って面白くない。
「てめーばっか良い思いはさせねーぜ。
ガキをよこせ!
オレが連れてってやる!!」
その声と銃声が聞こえたのは同時だった。
「邪魔だ!!!」
ツナは左手で男の顔面を殴ると、女の子とレイを連れて砂浜へと急いだ。
こうして、ツナは女の子の救助に成功したのだ。
ー魔術?に近いけど何か違う。
レイが考え込んでいる間にツナは元に戻ってしまったようで
「助けてくれたのは、もっと鬼みたいな顔したお兄ちゃんと綺麗なお姉ちゃんだった。」
信じてもらえていない。
周りも女の子の言葉に納得する。
「(うう、オレって…)」
「顔つきって変わるものよ、お嬢さん?」
ふわりとペンギンのパーカーを羽織り、レイが登場すればそちらは分かったのかありがとうと抱き着く。
それを見てツナはまた涙を流した。
「貴女を助けてくれたのは、そこの彼よ。」
ツナを見て、レイは言った。
しかし、女の子は納得していないような表情を浮かべる。
そんな彼女にレイはしゃがんで視線を合わせると頭をなでる。
「ほら、顔つきにとらわれずちゃんと見てごらん。」
「うん…
お兄ちゃんだった。
助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!」
女の子は無邪気な笑顔を浮かべた。
その笑顔に、心が暖かくなったのをツナは感じた。
レイは満足気な笑みを浮かべていた。