□Tell Me
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男同士、一緒に暮らしてる俺たち、指が触れるのなんていちいち気にしない。

気にしないのが普通なのはわかってる。だけど、俺たち、あんなことがあったじゃない?


「覚えて、ないのかな」


時間が過ぎるごとに、きっとドンウの中で薄れていくんだろう。

もう、なんでもなかったことなのかもしれない。


いつだったか、なんて思ってみても、日付までしっかり覚えているわけではなくて。
ただ、二年も前の、夏に。

覚えてる?あの暑い日、俺たち一緒にいたよね。

汗をかいた身体で電車に乗ったら、冷えて風邪でもひくんじゃないかと思った。
隣に座ったね、俺が右側で、ドンウが左側だったの、そこまで覚えてるなんておかしい?

眠くなった…なんて言って頭を傾けたら、案外簡単にドンウは肩を貸してくれた。


「俺も眠い…」

ドンウの声が、寄りかかった肩から俺の身体中に響いた。

「すごい響く、声」

「そう?あーーーー」

「あは、やめろよ、もう」

無邪気に、わざと響くように。俺の身体中、ドンウの声で満たされてふわふわした。


気が済んだのか目を閉じたドンウ。じっと見つめてた。バレないように。

眠ったと思った。そっと手に触れた。

あのときドンウの手が動いたのは、寝ぼけてたんじゃなかったんだよね。


着くまでずっと、ドンウの手の温かさに包まれてた。あの思い出は、俺にとって幸せなものだったのに。



一緒に過ごすうちに、もうあの日のことなんか忘れてしまったのかな。
俺たち、これから何か変わる?


俺がこんなに目を見つめても、何も特別なものを感じないの?
俺たちの間には、なにも通じ合うものはないの?


手に触れても何も起こらない俺たち。何も感じない、ドンウ。

ドンウにとって、もう過ぎたことだったんだと気付いた。

そう思うと急に胸がちくちくして、どうにかなりそうだ、本当に。


幸せだった思い出。思い出しては
ずっとドキドキしてた、そんな思い出。

全く同じものが、こんなにもがらっと変わる?

今はもう、同じ思い出が、俺を苦しめるものでしかない。
俺を苦しめて、俺の胸を締め付けて、切なくさせる。
何が変わった?お前の気持ちだけだよ、シン・ドンウ。


幸せな思い出としてずっと持っていたかった。どうしてこんなに変わってしまったんだろう。

もう、遅いんだね。
俺たち、今更なんだね。


せめてあのときの気持ちだけ知りたいのに、怖くて聞けない。

そんなこと、あったっけ?なんて。はは、いかにも言いそう。

耐えられないよ、俺きっと。


こんなに切ない思い出でも俺は、まだ大切にしたいと思ってる。
馬鹿だと、自分でも思うけど。

俺まで忘れてしまったら、誰も知らないあの日の出来事が、綺麗に消えてしまうじゃない。
悲し過ぎるよ、そんなの。


せめて俺の記憶の中でだけ、あの日を大切にするから。

忘れてるならそれでいい。どうか気にしないで。

だけどまだ覚えてるなら、もし覚えてるなら…

何十年先でもいい、俺に教えて。

いつまででも、俺は覚えてるから。


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