に
□好きにさせて
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「…ヒョン、ドンウヒョン」
ソヌが小さく俺を呼ぶ声。そっとドアを開ける。
「ここだよ」
局のトイレの一番奥の個室に二人。
予定ならもう番組の収録が始まってるはずだけど、共演者の一組が、前のスケジュールが押してるとかで遅刻するらしい。入り待ちで時間があいたんだ。
「ヒョン…」
「静かに」
ドアの鍵をかけて引き寄せた。こうして体を密着させるのはもう何度目だろうか。
別々にとは言っても、二人が抜け出すわけだ。不審がるところなのに三人が探しに来ないのはきっと、黙認ということだろう。
「ヒョン、もう…する?」
「…いや。待って、先に」
ベルトに手を伸ばしてきたソヌを止めて、その後頭部に手を添えた。
あとはアイコンタクト、で伝わるだろ?
「ん…、っ、は…」
お互いの唇が当たったら、そこからはもう貪るように口じゅうに舌を滑らせる。
平たくなった上の歯をたどってから上顎をくすぐると、鼻にかかった声を出した。
「っ…バカ、静かに」
「だって…」
少しはバツの悪そうな顔をしてるかと思って覗きこんでみたら、どことなく恍惚とした顔で目を伏せていた。
「そんなに好きなの」
「え〜…それ聞く?」
「もう聞いてるのに?」
答えの代わりに唇を柔らかく吸われて、ゆっくり離れてく。名残惜しさにほんの少しだけ追った。
「…好き、」
湿った唇から、息と一緒に小さく吐き出された。短い一言を聞いてすぐ、どちらともなくまたキスを再開する。
「…っ、」
「、は…ぁッ…、っ好き、…キスも、ヒョンも…ッ」
今日のソヌはいつもより積極的な気がする。俺の下唇を挟んだり舌を吸ったり。
「ん、…?」
「ダメ…、やめないで」
ソヌの手が俺の下半身に置かれる。
ファスナーを下げる間も、キスを中断するのは許されないらしい。何度も離しては合わせる唇の柔らかい感触が心地好い。
こうしてソヌが積極的に俺にしてくることは、ソヌが俺にしてほしいことだ。何度目かでようやく気付いた。
「…ソヌヤ」
「いいから…ヒョン座って」
言う通りにすると満足げに、俺の脚の間に入り込んでくる。俺はそんなソヌの口元に指を運んで。
「見せて」
「…あ〜、」
ソヌが素直に口を開ける。その中を覗き込みながら、上の歯を指先で撫でた。
「綺麗に揃ってるな…」
「……ん、、」
なだらかさに感心してたら、熱い舌に指を舐められて、それから唇に包まれた。ソヌはわざとちゅぱちゅぱと音をたてながら、俺の指先を吸う。
熱くて柔らかい口の中。ここに迎え入れられたときの気持ち良さを知っている。もちろん、指なんかじゃないものを。
「時間ないんだったね。ごめん」
「…そうですよ、ヒョンもっと考えてよ、俺もやってもらうんだから〜」
冗談っぽく俺を急かすソヌ。手ではもう俺のをパンツから出してる。
目の前に出しておきながら俺の一言を待ってるのが、「待て」をされた犬みたいで笑える。「よし」って、もう言ってやらなくちゃいけないな。
「じゃあ…お願い」
「っ……ん、ぅ…」
言った途端に先っぽを口に含んだ。やっぱり今日はいつもよりがっついてるような感じだ。
「ん、…いいよ…」
「ッ…ふ、でしょ、…っん、」
舌先は先で忙しなく動いて、カウパーが離れたソヌの舌と糸をひくのがひどくいやらしく見えた。
(…あぁ、そうか。)
なんとなく違うなと思ったのは、いつもソヌにくわえられると微かに当たる、前歯の感触がなかったからだ。
きっとそれが無いからソヌも今日は得意げなんだろう。
ときどき俺の顔を見あげて不敵な笑みを浮かべては、またわざと音をたててしゃぶってみせてくる。
「っ…、ソヌ、」
「んっ、む…、ぅッ…」
俺の声を聞いてくわえ込んだ。もう慣れっこだ。俺はそのタイミングで小刻みにグラインドさせる。
「く…、…ッ」
出した精液は全部ソヌの口の中。収録前に、服はもちろん、メイクの済んだ顔を汚すわけにいかない。
「ん゙〜…」
どいて、と手で示されて立ち上がった。便器に吐き出してトイレットペーパーで口を拭うソヌ。
「やっぱり色気ないよな」
「…っは…、あーマズ。」
「悪かったな」
「俺もともとフェラ好きじゃないんだってば…ヒョン知ってるでしょ?」
「おー」
確かに前言ってたような。その割りにノリノリだった気がするけど。
あ、なんだっけ、理由思い出せない。不味いから?くわえてる顔がブサイクに見えるから?
「キスしてくんないじゃん」
「え?」
「キス、してくんないじゃん、口に出したあと。」
「あぁ…」
そりゃ、自分の精液味わうなんて御免だ。
「ね。だからキライ」
そう言って唇を尖らせる。なんていうか、未だかつて、チャ・ソヌという男をこんなに可愛く思ったことがあっただろうか。
「はい、ありがと…、交代」
狭いトイレの個室で男二人、場所を入れ替わるのも一苦労。不意打ちを狙って、腰に手を回して引き寄せてみた。
「っ…ヒョン?」
「好きになって」
「えっ?…、ん゙、んッ…!」
ちょっと躊躇ったけど強引に唇をふさいで、舌をねじ込んだ。
やっぱり不味かったけど、後悔はなかった。薄目を開けて盗み見たソヌの表情が今までにないくらい蕩けきっていたから。
「…好きになってくれた?」
「ん…、フェラも、ヒョンもね」
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