いち

□変わらないままの俺たち
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「ジニョンヒョ…」

呼びかけて、ヒョンの視線の方向に気付く。俺はただ、黙ってうつむいた。
ジニョンヒョンの視線の先を俺が見てしまったらきっと、目が合うから。ヒョンが見つめている人と、俺。

ジニョンヒョンは、なんてわかりやすい人なんだろう。聞かずとも、ヒョンの気持ちなんてわかった。
俺がずっとジニョンヒョンを見ていたから。俺には辛い、ヒョンの視線の先。その意味ももう、俺は知ってしまった。

「…、あれ、どうしたの?」

俺がそばに来たのにやっと気付いたヒョン。酷い人だな…。

「いえ…なんでも」

「何か用があったんじゃないの?」

用なんて、ないけど。ただヒョンと話したくて、ヒョンの近くにいたかった。でももうそんなことしたって、俺が悲しいだけみたい。
ああ、俺だけじゃないか。俺の悲しみはあの人の悲しみ。あの人の悲しみは、ジニョンヒョンの悲しみ…か。

切ないね。人の気持ちって、どうしてこんなにうまくいかないんだろう。ひとつ変わるだけで全部うまくいくのに、どうしてこんなに、揺るがないものなんだろう。
恋だの愛だのって、そんな感情はこの世で一番変わりやすいものだ思ってたのに。


自分で、力ずくで変えるしかない。
変わるか、壊れるか。紙一重だけど、変わらないよりマシだと、俺は思うから。


「…ヒョンは今、何を見てました?」

「え…?何って、別に…何も」

「すごく、綺麗な目でした」

「なに…?チャニ、何言ってるの?」

ヒョンの動揺が手に取るように伝わってくる。やっぱり、わかりやすい人だ。

「だって本当に、純粋で綺麗な目をしてましたよ、…シヌヒョンを見る、あなたの目」

「っ……」

このジニョンヒョンの表情は、なんて表わしたらいいかな。まさに、“表情がない”って感じだ。
少しいつもより目に力が入って、険しいとまではいかないけど、決して穏やかじゃない。
俺はもっと、ふわっと笑うヒョンの顔が好きなんだけど…。

「まさか、俺が気付いてないとでも?」

「そう…そうだね、有り得ないね」

そうでしょう、だって思い出してもみてよ。あなたはすぐ気付いたじゃない、俺の気持ち。自分に向けられた、俺の好意を。
知ってたでしょ、俺がジニョンヒョンを好きだって。俺がいつもヒョンを見てたの、わかってたでしょ。
自慢じゃないけど鋭いほうなんだよ。本当に自慢じゃない。知りたくないことまでわかってしまうんだ、辛いよ。
ねぇ、だから、そんな俺が、気付かないわけないじゃないか…。

「ヒョン、どうするの?打ち明けるつもりはあるの?」

「悪いけど…チャニには、関係ないよ」

なかったらどれだけいいか。本当に非情な人だな、ヒョンは。

「それがね、…俺は、あの人の、シヌヒョンの気持ちを知ってるんです」

「へぇ…」

関心がなさそう、いや、疑ってるのか。

「知りたく、ないの?」

「そうだね…俺にとって嬉しい話だったらぜひとも知りたいけど」

多分、そうじゃないから。
そう言うヒョンは、特に落ち込んでるようにも見えなくて。平然としていられるのは、知っていたからなのか。
目が合ったジニョンヒョンが、意味深な笑みを浮かべる。なるほど、これは、知っていたって顔だ。

「…どうやって知ったんですか」

「さっき自分で言ってたじゃない。見てればわかるってものだろ。それより、そっちこそどうして?」

「ヒョンだってわかったでしょう」

自分への好意、なんて、一番簡単にわかる“人の気持ち”だよ。
シヌヒョンは俺が好きだ。きっと俺を愛してる。予想に近かったけど、どうやら確実らしい。ジニョンヒョンの一言一言に確信した。

「厄介だね、チャニには、…好きな人がいるのに」

「自分で言うなんて、変なの」

「なんか、恥ずかしいじゃん」

「恥ずかしいですか?…ジニョンヒョンがシヌヒョンを好きだなんて、あの人は俺が好きなのに〜……」

「…お?」

「あぁ…これ、結構恥ずかしい…っ」

自分で言っておいて、これは恥ずかしい。ジニョンヒョンは、それ見ろ、みたいな顔をしてる。だけど、俺たち二人とも、楽しく笑ってる。


「ヒョ〜ン、今度、失恋とか、叶わない恋の歌を作ったら俺にパートをたくさんちょうだい」

うまく歌えるから。感情のこもった、いい歌になるから。

「…ダメ。俺が歌うんだから。あー、絶対うまく歌えるな」

「あはっ、俺たち、似た者同士」

「本当に…いらないところまで似て」

「あ、案外、シヌヒョンに歌ってもらったらいいかも。感情こめて」

「ひどいやつ」

「ヒョンもじゃないか」

とっても単純でとっても複雑な俺たち。
知りながら黙っていて、いろんなことを思いながら一緒に過ごしている俺たち。
こんな状態でも、結局変わらず三人仲良くしていけてるのは…、もしかしてシヌヒョンも、すべてを知っているからだろうか。

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