いち
□言ってくれないなら
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「ヒョン…」
「ん、…はは、どうしたの?」
くすぐったいよ、って笑うジニョンヒョンに、変わらずに擦り寄る俺。ヒョンの首もとに顔を埋めて、ぎゅっと抱きついてる。
「うー…」
「なんだ〜オンマが恋しいか〜」
頭をくしゃくしゃ撫でてくれるヒョン。更に強く抱きつく。もっと近くにいたいから。隙間もないくらいぎゅっと。
「俺のこと好き?俺を愛してる?」
「どうしたんだよ、当たり前じゃないか」
「一番?他の誰より?」
面倒くさい、まるで自分がヒョンの彼女みたいなことを言う俺。
あまりに近いから、ヒョンの表情も何もわからない。だけど、きっと面倒だと思ってるだろうな。俺だってこんな自分、面倒くさいよ。
「…大好きだよ」
優しい声。背中に回されたジニョンヒョンの手が俺をなだめようと動く。それで欠けた言葉を埋めようとしたって、無理だ。
「一番、じゃないの…」
ほんの少しの沈黙。顔が見えなくてもわかる。ヒョンが困ってる。
「チャニ…わかるだろ、」
ヒョンは絶対に、俺を“特別”だって言ってくれない。
「…わからないよ」
俺はまたこうして、嘘をついてヒョンを困らせてみる。ただ、寂しくて。
俺とヒョンは特別でしょう。ただのメンバーがキスをするの?それ以上も?
ねぇ、ヒョン。今だけでも駄目なの。誰に言うわけでもなく、俺と二人きりの今も、俺たちを“恋人”とは言ってくれないの。
何がヒョンを躊躇わせるのかって、考えるまでもなく要因はたくさん見つかる。俺の頭の中に。
俺だって、俺だって色々わかってる。こんなの駄目なんだって、わかってるんだよ。
だけど…俺だけには、言ってくれてもいいじゃないか。それすらもできないの?
寂しくて死んじゃいそうだよ、ヒョン…。
「愛してるから…、理解、してよ」
「したいです…でもヒョンは…みんなに、愛してるって言いますね」
「それは…」
「みんな、同じように愛してるって」
そんなの仕方ない、リーダーが贔屓しちゃいけない。わかってるならどうして俺がこんな風に拗ねるかって、それは。
「本当に…、そう思ってるんだ」
それがヒョンの本心だから。
誰でも良かった?大好きなメンバーなら、誰でも?俺じゃなくても?
ただ、ただ俺がジニョンヒョンを、他のヒョンとちょっと違う目で見てたから?違う愛だったから?
「俺じゃなくても…こうなってたんだ」
「違うよ…!チャニ、そうじゃない、みんな愛してるけど、それは違う!」
「違う?違うってなに?だって愛してるんでしょう、みんなを、同じように」
ヒョンはみんな同じように愛してるって言った。俺も含まれるなら、同じようにって、やっぱりそうなる。
ああ…そうか、そんな軽いやつだったんだ、俺が愛したジニョンヒョンは。
「違うんだよ、本当に、それはそういう意味じゃなくて…」
「違うなら…」
「……」
「みんなと違うなら…俺はジニョンヒョンにとって、特別なの?」
俺の誘導に途中で気付いたヒョン。また、黙ってしまう。口を噤まないでほしいのに。特別だって、言ってほしいのに。
どうして?本当にどうしてヒョンはそんなに、俺を突き放すの…?
「…俺の話を聞いて」
「いやだ」
「チャニ…」
いやだよ、どうせその口から出る言葉は、俺が求めてるものじゃないんだから。
いつまで経っても変わらないヒョンの気持ち、俺はもう聞きたくない。できれば、二度と。
また俺に言い聞かせようとしたら、どうなるかわからないよ。
しっかり者、慎重、そう言われる俺には、すべてを壊すような、そんなこと、できないと思ってるよね。
買いかぶらないでよ、俺はまだ子供なんだ。ヒョンに愛してほしくて、特別になりたくて、聞き分けのない面倒な子供。
俺がヒョンのものじゃなくても、ヒョンが俺を恋人と認めなくても。
「ヒョンは…俺のものです」
みんなにそう知らしめるようなことだって、しちゃうかもしれない。
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