いち
□セクシーで魅力的な
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「っ…は、ジニョンヒョン…!」
「…ん?」
「手っ、手、はやいよ…っ」
「あぁ……、もう、イきそう…?」
「ッん、ぅ…っ」
洗面所の鏡の前。荒い息をするイ・ジョンファンの後ろで、俺はわざと、耳元で。
「愛してる…」
「あ、あっ、ヒョン…ッ、」
手に、ドロリとした感触が伝う。
ジョンファンは正面の洗面台に手をついて、口を開けたまま息を整えていた。
「…セクシーだ」
「え?」
「前を見て、ほら」
「や…やだよ、イったばっかのこんな…」
俺たち二人を映す鏡。ジョンファンの汗ばんだ首筋にはりついた髪を、指先で離してやったら、また小さく身体を震わせた。
「すごく魅力的だよ、ジョンファナ」
「また…その名前」
「…嫌?」
「うーん…。」
はっきりしない返事だけど、きっとあんまりいい気分じゃないんだろう。
“イ・ジョンファン”からアイドル“サンドゥル”に、変身したとか、羽化したとか、そんな言い方がよくされるから。
まるでイ・ジョンファンがもういなくなったみたいな、そんなの、有り得ない。
「俺はただ…、イ・ジョンファンっていうひとりの男を愛したい」
彼は、可愛く振る舞う、皆に愛されるサンドゥルじゃない。
可愛さはもしかしたら“サンドゥル”に全部持っていかれたのかな。今目の前にいるイ・ジョンファンは、確かに男だ。
俺を見つめる眼差しには、尊敬と、愛情と、それと、欲が見えて。
「ヒョン?」
「イ・ジョンファン…お前は俺の男だよね」
綺麗な目に、俺の姿だけが映ってる。それにどうしようもなく、嬉しくなった。
「…ここまできて、違うなんて言える?」
「言えるかもしれない、俺が、お前にとってその程度だったら」
探りあうように、笑いながら視線を合わせた。否定してくれるのを期待してる。
「あはっ…そうだね、俺はジニョンヒョンのものにはならない!」
「…っ」
一瞬のうちに、腰から引き寄せられてホールドされた。すぐ近くにきた顔は、完全に男の顔だった。
「ヒョンが俺のものになってくれたらいいじゃない」
そう俺の耳元に囁いたあと、ニヤリと笑う。それを視界の端でとらえながら俺は、何も考えられなくなるんだ。
「ッ…ん、ふ」
「ヒョン…やらしい…」
「そう、させてるのは…、」
「ん、そう、俺だね」
ぴちゃぴちゃ音をたてて耳を舐めながら、そのまま耳元に息混じりの声で囁くものだから、ぞくぞくして力が入らない。
「っ…あ、」
「わ…っと、大丈夫ですか?」
腰のあたりがふわりと浮く感覚がして、…いや、実際は落ちてるんだけど。
ジョンファンにぐっと支えられてなんとか姿勢を持ち直した。
「ジョンファナ…」
「ヒョン…。そんな目しちゃダメ」
「ん…?」
どんな目?
「そんなエロい目しちゃダメ。変な男に襲われちゃうよ、がおーって」
「っはは、なにそれ?」
そんな、両手でジェスチャーまでつけて。
「わからない?」
「あ…、」
油断してたら、その手をそのまま俺の後ろの壁について、俺に詰め寄ってくるジョンファン。
「変な男、イ・ジョンファン、目の前にいるでしょ?」
じっと見つめられてまた、さっき禁止された目をしてしまいそうで。
「わからなかったな…」
目の前にいた男は、俺の目にはこれっぽっちも変じゃなかったから。
ねぇ、お前は知ってるかな。
「今のジョンファン、すごく…素敵だよ」
「何言ってるの?ヒョンのほうが…」
「ん?」
「…俺は、ヒョンより綺麗なひとに会ったことないよ?」
ジョンファンは何度もそう言うけど、わかってない。
「そんな俺は今、お前に夢中だ」
お前が最高だよ、イ・ジョンファン。
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