いち

□昔の悪い趣味を
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まっさらなページを、俺のつくったメロディが埋めていく。

この快感はまるで、白く降り積もった新雪に足跡をつけるような。波が撫でたなだらかな砂浜に文字を書くような。


完全なもの、綺麗なものを、壊したり汚したりするのが好き。

こういう気持ち、俺だけじゃなくて、誰だってそうだったはずだ。
誰だって昔は、霜柱を踏むのが好きで、花や葉っぱをちぎるのが好きで、落書きをするのが好きだったはず。

小さい頃は「イタズラ好き」で許されたこと。俺はそれを卒業するどころか、少しこじらせてしまったみたい。


俺はもうオトナになったよ。子供が知り得ないいろんなことを知った。子供が知り得ない快感を知った。
そう、だから、たちが悪い。

まっさらで清らかなものが「俺」で埋められていく。「俺」を刻まれる。汚されていくんだ。「俺」に。
たまらない。勿論それは、性的興奮だ。


デビュー前はそれこそ、何も知らない清純そうな女の子を選んで付き合って、所謂、初体験、をプレゼントしたり。
でも芸能界入りして、デビューを目指して、その途中。俺は男を知った。芸能界は怖いところだった。
男を恋愛対象として見たことはなかった。今までもない。だけど男とのセックスは、女の子相手じゃ得られない快感があってハマった。
対象の性別が増えたところで結局俺は変わらなくてまた、純粋そうな(むしろストレートそうな)男を選んでは誘ってた。
男とのセックスをまだ知らない、そんな男と。誘うのにも、自分で準備するのにも慣れた。

ただ、正式なデビューが決定したら、そんなことはしていられなかった。
できないよね、アイドルが、まさか。


今はそんな気持ちを抑え込んで暮らしてる。だけど、曲を作るときにはどうしても、自分の性癖を思い出さずにいられない。

このメロディが誰かの耳に入る。誰かの声帯を揺らす。今までその誰かの頭になかった、声帯が知らなかった音の運び。
俺のつくった旋律がその人の頭に入り込んで…そう思うと、身体が火照る。

この感覚がわかる人っているのかな。もしかしたら俺だけ?説明ができないのに。



「ヒョン、俺、この歌好き」

「…ありがとう」

俺が作った曲をメンバーが褒めてくれる。嬉しいし有り難いけど…正直、口ずさまれると困るんだ。
だって、駄目だよ、俺の曲が君たちの喉を汚すのに、興奮しちゃうじゃないか。


ステージで歌うときは、自分も歌にダンスに集中しててそんなに気にならないけど、レコーディングのときは怖い。
ちゃんと聞いて指示しなきゃいけないのに、歌声を聞いているうちにどんどん身体が熱くなって、頭がふわふわするくらい気持ちよくなっちゃう。

一度それを経験してから、もうこんなの駄目だ、って自分を戒めた。
レコーディングの前には絶対に…抜いておいて。変なこと考えないで仕事に真っ直ぐ打ち込もうって。
厳しくしすぎてときどき怖がらせてしまうけど、欲情するよりマシだから。


今、気にする暇のないステージでのライブでもなければ、覚悟して臨むレコーディングでもない。
だけど俺の隣で、俺たちのグループの可愛い末っ子が純粋そうな笑顔を浮かべて、俺の曲を口ずさんでいる。

中身がどうかなんて関係なくて、ただ見た目が純粋そうなのが俺にはたまらない。
チャニのいつも通りの部屋着、セットしてないサラサラの黒髪に、シャンプーの香りまで、それが完璧すぎて。
胸の底からじわじわと、抑え込んでいた感情が沸き上がる。

「…どうしたの?ヒョ〜ン?」

黙り込む俺に愛嬌を見せるチャンシク。
ああ…、駄目、駄目だよ。そんなの、汚したくなるじゃない。


「お〜い、ヒョ〜ン?」

「ッ…、」

駄目なのに。俺が我慢できてるうちに、やめてほしかったのに。

「ヒョン、熱でもあるの?顔が赤い…。それに、苦しそう…!」

俯く俺の顔を覗き込んで、的外れのことを言う可愛いチャニ。俺は、そんなお前に…

「…興奮、しちゃった」

“いけないこと”…教えたくなっちゃったみたい。




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