いち

□消してしまいたい
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寝るには眠くなくて、起きているには少しだるい、そんな状態。
ヒョンたちはベッドで静かにしてる。寝てるのかはわからない。

そういえばプレゼントがいっぱいきてた。その中に確かディスクみたいなのがあったような。
書かれてた言葉を覚えてる。「私たちの愛の記録」。気になってたんだ。
そこから想像するに、サイン会やライブの映像なんかをまとめたんだろうか。
客観的に自分たちを見て分析するのはいいことだ。うん。

部屋を出て、箱にひとまとめにしてある手紙やプレゼントの中から、ディスクの入った封筒を取り出す。
ひとりじゃ寂しいな。あ、ソヌヒョンが前歯を研ぎ終えたみたいだ。

「ヒョン、」

「チャニ、おやすみ〜」

「え…、あ、おやすみなさい」

寝ちゃうのか。仕方ないな、リスは昼行性らしいから。
ひとりで観よう。面白かったらヒョンたちとまた観ればいい。


僕も部屋に入って、ベッドに座って、パソコンにいれて、イヤホンを耳にはめて。

再生。さて、どんな映像だろう。

「チャナ〜?パソコン?明るい〜」

「ごめんなさい、布団に潜ってて」

「それじゃ息苦しくて眠れないんだよ〜」

アヒルが鳴いてるけど知らない。今僕イヤホンしてますから、聞こえませんよ〜。

今度こそ、再生。


画面に映し出された映像は、僕の予想とはかけ離れていた。


粗い映像とノイズ。ブレもひどい。
普通の部屋みたいなところ。

パソコンの画面、四角い枠の中に、見慣れた人がひとり。

「あ、れ…ジニョンヒョン…?」

随分若い。いや、今が若くないとかじゃなくて、今と比べて、まだ顔が少し幼い。

カメラを向けられてはにかむヒョン。その後に映されるベッド。

もしかして、「私たちの愛の記録」って、昔の彼女との映像だろうか。どうしよう、スキャンダルだ…!
B1A4ジニョンの元カノなんて、しかもベッドシーンなんて、大変だよ!

うろたえていると、画面の中のヒョンがベッドに座った。カメラも動いて、撮影者も隣に座る。


伏し目がちなジニョンヒョンを絶えず撮り続けるカメラ。撮影者が映らなかったからわからなかった。

二度目の衝撃。

『ジニョンア、やって』

『…はい、ヒョン』

撮影者が、男だったこと。



ジニョンヒョンより歳上なんだろう。ヒョンと呼ばれた撮影者が、両脚をベッドにあげた。
そいつの脚の間に入ったジニョンヒョンが、そっと手を撮影者の股間に伸ばす。

ゆっくりチャックを下げるジニョンヒョンに、カメラが寄った。
見たくもない勃ちあがった撮影者のモノがアップで映し出されて僕は顔をしかめた。
その向こうに、ジニョンヒョンが見える。今の僕よりも歳下のジニョンヒョン。

『ヒョン…』

おかしい…今の僕が、この頃のヒョンに会っているみたいだ。
完全に主観的に撮られたこのビデオのせいで、まるで、僕がヒョンと呼ばれて、見つめられているようだ…。


『そう、カメラを見て、唇舐めてみて』

『……。』

その、まだ幼いジニョンヒョンが、そんな指示に素直に従うのが妙に卑猥で。

『いいよ…ゆっくり、舌、這わせて』

『……ん…、っ』

また素直に従うヒョン。ゆっくり、見せつけるように目の前のモノを舐めてから、その舌に感じた味に眉を寄せた。

『どんな味?』

『…美味しいです』

『嘘つき』

『美味しいです、ヒョンのだから…』

こっちを見つめて、いや、カメラを見てジニョンヒョンがそう言う。
その言葉も僕に言っているようで、本当におかしな気分になりそう。

『…続けて』

『ヒョンは、どうされるのが好きですか』

『ん?』

『どうやったら、…気持ち良いですか』

僕よりも歳下のジニョンヒョンが、いやらしいことを言う。
本当はヒョンなのに、この画面の中のチョン・ジニョンはヒョンじゃない。

『教えてください、ヒョン』

僕を見つめて、僕をヒョンと呼ぶ。絶対に歳は追い越せないのに。
現実では有り得ない世界。僕はもう、画面の中の少年を、こう呼ぶしかなかった。

『「ジニョンア…』」

この、主観的なカメラワークのせいで。僕はすっかり入り込んでしまったみたいだ。



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