いち
□定まらない理想
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「うわぁ!この靴超かっこいい!あ、宣伝とかじゃなくて、本心ですよ、ふふ」
っていう宣伝ね。カメラの前で言うんだから当たり前でしょ。お仕事お仕事。
ファッションに関してなら、俺の言葉が一番注目されると思う。だってほら、俺のセンス、認められちゃってるから。
B1A4バロの、頭からつま先まで洗練されたファッション。知ってるでしょ?
今回の俺たちのお仕事は、ファッショナブルかつ機能的なスニーカーの宣伝。
俺がまずデザインにコメントする。そしたら次は履いてみて服を合わせる。
それがかっこよく見えれば宣伝効果抜群。
同じデザインのレディースがあるっていうのも、ジニョンヒョンが「彼女とお揃いで履きたいですね」なんて言って。
遠距離恋愛の恋人に、この靴で私に会いに来て、って願いを込めて贈るのもいいかもしれませんね。
ゴンチャンが、ロマンチックで女心をくすぐるコメント。
C「左右で色違いを履くっていうのは?」
J「お…そのために2つ買うの?」
B「それはおかしいじゃないですか〜」
S「よっぽどオシャレな人じゃないと」
G「間違いに思われて恥ずかしいですよ」
なんて、シヌヒョンの天然発言にみんなで突っ込んだり。
撮影は順調。使えるシーンが多すぎて迷っちゃうくらいなんじゃないかな。
「一旦止めまーす!違う色に履き替えて頂いて、そしたらまた再開します」
「はーい」
そうしてとりあえず履き替えたら、休憩も兼ねて、って少し時間をあけてくれることになった。
与えられた10分。…そう、これは休憩なんかじゃない。
執拗に俺たちを追うメイキングカメラ。お仕事はここでも続く。
ふふふ、需要はわかってますよ。
「バロヤ〜!」
お、あっちから来た。カメラが俺たちふたりに期待する。
「サンドゥラ、さっきシヌヒョンが言ってたやつやってみよう」
「えっ、左右で色違い?」
「はい、右貸すから、右脱いで」
「え〜!絶対に変だよ!」
「…」
「あ、シヌヒョン…」
「あぅっ…!!」
…サンドゥリが蹴られた。
なんだよ、需要があるのはバドゥルじゃないの?
とりあえず大げさに痛がるサンドゥリのスニーカーを脱がせて、右だけ履いた。
「そんなに変じゃない?」
「バロがやると変じゃないんだよ」
あ、サンドゥリが生き返った。
「そう?かっこいい?」
「おー。」
「つれない返事だ」
「バロとは、絶対にどっちも欠けちゃいけない靴のような、そんな関係になりたいです」
俺はそっちのけでカメラに話しかけるサンドゥリ。
「靴のように、どこまでも一緒に歩いていけるような関係じゃなくて?」
「お、それもいいな」
「意思をしっかり持てよ」
「あ、いや、違うよ!ホントにそっちもいい案だと思ったんだよ!」
「そう?」
「そう!」
俺はカメラを見て呆れたような顔をする。
「信用ならないやつだ」
「ホントだってば!」
スニーカーを正しく履き直してそいつのそばを離れた。
きっと誰にも気付かれてないだろう。それが照れ隠しだってこと。
絶対に欠けちゃいけない。
本当にちょっと、嬉しかった。
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