いち

□目撃者@シン・ドンウ
1ページ/1ページ




「…あ゙ー」

夜中に目が覚めて、水を飲みに、ベッドから起き上がって部屋を出る。


誰も起きてないと思ったのに、トイレのドアの音にびくっと体が震えた。

「びっくりした…誰?」

「っ…、わぁあ…っ!」

出てきたのはジニョンで、ぱちっと目が合った途端叫ばれた。

「ごめん、驚かせちゃった?」

「…いや、その、まだ起きてるって思わなくて…」

なぜだかジニョンは、俺から出来るだけ離れるようにしながら話してる。

「…どうしたの?」

「違っ、あの、恥ずかしい、から…」

「恥ずかしい?何が?」

「聞こえてなかった…?」

聞こえてなかった…って、え、まさか、音を気にしてるの?トイレの?


「…ははっ、そんな、今さら」

「い、今さらって…!」

「気にすることないよ、だって俺たち、家族みたいなものじゃない」

「…ほんと?」

そんなこと気にするなんて、ジニョン、女の子みたいだ。華奢だし、きれいな顔してるし、女の子でもおかしくないな。

暗いなか、目を凝らしてジニョンの顔を見たら、指の痕みたいなものが見えた。

「ジニョン、それ、どうしたの?」

「それ?」

「その、指の痕みたいな。口元の」

「えっ…あ、うそ、ついてる…?」

なんだろう、頬杖でもついてたのかな。

「まぁすぐ消えるんじゃない?」

「…うん、あ、あの、ちょっといい?」

「ん…何?」

「見て、ほしいんだけど…」

そう言ってジニョンが、俺に背中を向けて、片手で襟足を浮かせるようにして首を見せてきた。

近付くと、ふっと香る、汗が混じったジニョンの香りにどきっとする。
暗くても光って見えるほどの肌。項が妙に色っぽくて息を呑んだ。

「み、見るって、何を?」

「ん…もっと下だったかな…」

服をずり下げて肩甲骨まで見えるように背中を出したジニョンが、振り向いた。
顔が近い。一瞬、呼吸を躊躇ったほど。

「ジニョンア…」

思わず熱っぽく名前を呼んだ自分が、馬鹿みたいに思えた。
俺は何を考えてるんだろう、いや、何も考えてないんだけど、なんだか、変な気分。
とにかく今、すぐ目の前にいるジニョンが、いつもよりたおやかで、色っぽくて。男なのに、惹き付けられて…。

「どう?ないなら、いいんだけど…」

ないなら、いい…

「…ん?ごめん、何が?」

ごめん、全然見てなかったし、何の話をしてるかもさっぱりだ。
っていうか、見てほしいって言われても、暗いから俺だってよく見えるわけじゃないんだよ。

「いつもだけど、よく覚えてないんだよね…でも残ってたらまずいからさ…」

「ん?うん」

何を?何が?

「首の後ろとか背中って自分じゃ見えないし、困るんだ」

「…うん、ごめん、何の話?」

「え…?」

「何が残ってるとまずいの?」

湿布?いやさすがにそれはないよね。
なんてひとりで考えておかしく思ってたら、ジニョンが拳を口にあてて目を泳がせてた。

「だって、今さらって…。えっ、うそ、わっ…!忘れて!今すぐ忘れて!」

「なんだよ?」

「いや、なんでもない、なんでもない」

「嘘つき。言ってよ、じゃなきゃ言うまで聞くよ」

言うまで寝かさないよ。だってそんな、ジニョンがそんなに焦ることって、すごく気になるじゃない。

「今さら…とか言うから、わかってると思ったんだ」

「わかってる?」

俺が?何を?

「だから、…」

「あぁ〜ねむい〜!」

「えっ!チャニ…っ!!」

突然トイレからチャニが出てきて驚いた。

「もう寝る〜…あ、ジニョンヒョン、シャワー浴びる?」

「チャ、チャニっ、黙って!」

「え?ドンウヒョンわかってるんじゃないの?家族みたいなものだからって言ってたじゃないですか〜」

な、なんで、さっきジニョンが入ってたはずのトイレからチャニが出てきたんだ?俺たちずっと前にいたのに、いつ入った?
しかも、シャワー?こんな夜中に?

「もう手遅れだな…」

「俺のせい?」

「そうだよ、もう、チャニが見てよ!噛んだりした?覚えてる?」

「俺も覚えてない…暗いし…」

チャニに背中を見せながら、俺とは絶対に目を合わせないジニョン。
ちょっと待って、噛んだりって、どういうこと?

「見えない?」

「うん…。それより、顔、指の痕がついちゃったって…ごめんなさい」

「ほんとだよ、どうしてくれるの?俺のこの顔が…」

「だって、押さえててあげないとヒョン声出ちゃうから〜」

「う、うるさい!」

思考がついていかない。

「後で見ましょう、俺も一緒にシャワー浴びるから」

「うん…」

一緒に?シャワーを?
どういうこと?二人とも、こんな時間に、何をしてたの?

「じゃあドンウヒョン、お休みなさい」

笑顔を浮かべて、可愛らしい声色でそう言ったチャニに、俺は返事をすることすらできなくて。

ジニョンが気にしてた「音」がなんの音なのか、首や背中に残ったら困るものがなんなのか。やっとわかったけど、わかりたくなかった。

…ちょっと衝撃的すぎる。
あぁ、こんなの、ますます眠れないよ…。


_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ