いち
□ささやかな牽制
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「ヒョン?何してるんですか」
「んー?寝顔、撮ってる」
ヒョン…そんなの見ればわかるってば。俺は、何してるかじゃなくて、なんてことしてるんですかって聞いてるんです。
「…ツイッターに?」
「うん」
ジニョンヒョンの寝顔を撮るなんて、ましてやツイッターにあげるなんて。そんなの許されないぞ、この俺の許可無しじゃ。
これがリスやアヒルだったら思ったまま言ってるけど、ドンウヒョンだもんなぁ…。
俺のジニョンヒョン、って言いたいのに、残念ながらヒョンはアイドル。職業柄、寝顔だってファンサービス。
しかもジニョンヒョン、細いくせに胸のあいたシャツとか着て、上半身を倒したらお腹まで全部見えたりする。
ちゃんと、かがんでも見えないような服を着てほしいのに。俺以外に見せないでほしいのに。
「ジニョンヒョン…」
「…ん、なに…」
寝てるジニョンヒョンにぎゅうぎゅう抱きついて、胸に頭を置いた。
ドンウヒョンはとっくに写真を撮ってどこかに行っちゃった。だから今は俺たち二人きりですよ、ヒョン。
「ヒョン…」
「どうしたの?」
「ん……」
ヒョンはそれ以上聞かずに、ただ俺の体を引き寄せて頭を撫でてくれた。
「あは…今日のチャニは、いつもより甘えんぼだね」
「そうかも…」
ヒョン、なんか嬉しそう。俺が甘えるのが嬉しいのかな。それって…どういう感情なんだろう。
まだ眠たいらしいヒョンはまた目を閉じたけど、俺の頭に置かれた手は優しく髪を撫でてくれてる。
今は俺だけのヒョン。今だけ、俺の。
俺の望む体勢は本当は逆で、俺の胸にヒョンを包みたいんだ。抱き締めてヒョンを隠したい。
もっと俺の胸が広かったらっていうかヒョンが小さかったら…そう、そうだよ、小さかったらいいのに。
それも、すごく小さかったらいい。手のひらサイズのジニョンヒョン、絶対可愛い。
そしたら俺はヒョンを隠しておけるし、ポケットに入れて、どこへだって一緒に行ける。素敵だと思わない?
内ポケットにヒョンを入れたら、心臓のすぐそばにヒョンを感じられる。ヒョンが俺の体温を感じられる。
だから毎日そういうカッコをしなきゃ。大丈夫、俺はジャケットだって完璧に似合う男だよ。
暑くてもちょっとは我慢。袖を捲ればいいだけ。誰にも見られない内緒のデート。
ヒョンが小さくなるのはさすがに非現実的だけど、例えばヒョンに、俺のだって名前を書いておきたい。
俺のだってしるしをつけておきたいんだ。誰かにとられたりしないように。ヒョンが自覚してくれるように。
これは、できるけどできないこと。つまりしちゃいけないこと。
考えれば、ヒョンの、一体どこに名前を書くっていうのさ。
見えるところに書いたら間違いなく色んな人から怒られるし、だからって見えないところに書いても意味ないし。
それにジニョンヒョンだって怒るかもしれない。それは嫌だ。ヒョンに嫌われたりしたくない。そんなの絶対耐えられない。
…何かいい方法ってないのかな。
妥協すれば案は出てくるだろうけど、何を譲れる?ヒョンに自覚してもらうこと?
ヒョンには見えなくても、周りにはちゃんとわかるっていう方法。ヒョンは俺のものだって主張する方法。
考えたらひとつしか出てこなかったけど、今、やっていいかな。ヒョン寝てるし、バレないかな。
ヒョンを起こさないようにそっと動いて、寝顔を眺めた。
無性に愛しくなって頬に軽くキスを贈ったらヒョンが少し動いたから、起きるんじゃないかとハラハラしたけど
疲れてるだろうし、まだ規則正しい寝息をたててるし、そうすぐには起きないはずだと思う。
今、チャンスだよね…。
綺麗な首筋に顔を寄せて、ヒョンの見えないところに唇をつけた。
「ん、…」
…この透き通ったみたいな肌に、鬱血がひとつ。俺の独占欲のあかし。
これくらいならメイクとかテープで消せるし、ファンにも気付かれないはず。
ただちょっと、周りにいる人に気付いてほしい。ジニョンヒョンは俺のものだって。
しるしをつけておいたら、誰もヒョンに手を出したりなんてできないよね。
本人には虫刺されだと思わせとこう。ヒョンは気付かなくていいんだ。俺のちっぽけな嫉妬なんて、知らなくていい。
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