連載(You raise me up2)

□2-第1章
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さんと真田が交際をはじめてから一週間が過ぎた。
僅か一週間ではあったが、さんにとっては非常に濃い日々だった。

まず、真田が両親にさんを正式に紹介する、と言いだし家を訪問すれば大歓迎で迎え入れられ、真田本人はやたらと畏まって「俺が生涯を共に送ると心に決めた女性です。」などと言いだすし、10分後には二人が結婚した後は真田のご両親は田舎に引っ越して余生をのんびり過ごしたい、など気が早すぎることを真剣に語っていた。


そしてその数日後には大阪にいる筈の四天宝寺の白石がいきなり神奈川に来て真田にテニスの試合を申し込み(結局弦一郎が勝った。)、しかしさんに「俺は諦めへんでぇ!」と叫んで帰って行った。


それに何故か不二と幸村はこの頃毎日電話してきて真田とさんの様子を聞いてくる。順調にやっている、と言えばすぐ不機嫌そうになって電話を切ってしまうが。


・・・とにかくそんな精神的に休まらない日々を過ごしてきたから(特に不二・幸村コンビのせいでな!)、このままバタバタと夏休みが終わってしまう予感さえしてきた。

だからこそ、夏休み最後の土曜日の夜に神田から遊びのお誘い電話を受けた時は、さんは二つ返事でオーケーした。

水着を持参するように言われたので、行き先は恐らく海かプールだろう。

夏休みに入ってから神田とはほぼ毎日メールはしているものの、直接会ったのはこの前桂の家で浴衣選びに付き合って貰った時だけだ。


(楽しみだなぁ!)
夏休み最後の日曜日を神田と過ごせることが嬉しくって、さんは胸を弾ませながらベッドに入るのだった。


― ― ―


日曜日の朝。
さんは待ち合わせ場所の千葉県のとある駅に来ていた。

辺りを見渡せば、スラッとした体、風に靡くポニーテール、そして遠くの景色を何処か物憂げに見つめるあの凛とした横顔。

間違いない、彼・・・否、彼女だ!


「ユウちゃーん!」

さんが大きく手を振りながら向かえば神田はこちらを振り向いて笑顔を見せながら軽く手を上げた。


「よぉ!さん、ヅラん家で浴衣選びした時ぶりだから・・・10日ぶり位か?今日は付き合ってくれてありがとうな!それと遠い場所まで呼び出しちまって悪ぃな。」

「ううん、全然いいよ!それに何だかんだユウちゃんも私も部活忙しくって中々予定合わなかったから一日かけて遊べるなんて嬉しい!」


さんが満面の笑顔を見せると神田もフッと笑って歩きはじめた。

さんはそんな神田に着いていく。
東京や神奈川とは違う、庶民的な商店街や少し古めかしいが温かみのある街並みが新鮮だ。


「・・・それにしても、さんは真田のアンチキショーのものになっちまったんだよなぁ。あーフケメンのくせに!・・・まあでも、癪に障るけどよぉ、アタシは女だからさんに何しても友情という単語で何でも済まされるからな!」

そんなことを言って神田はニコニコしながら歩いているさんの手を握る。

「そうそう!仲が良いだけだもんねー!」

さんもギュッと神田の手を握り返す。


そんな無邪気なさんの反応に神田は一瞬切なそうな表情をして、そしてまた優しい表情を浮かべたがさん本人は気が付きはしなかった。


― ― ―
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